高血圧の方は、食事療法として、塩分制限がすすめられています。 一方で、連日の猛暑で懸念される熱中症予防としては、水分補給だけでなく塩分摂取も推奨されています。
では実際、高血圧患者さんは夏場の塩分管理をどのようにするべきなのでしょうか。
日本高血圧学会と厚生労働省の発表をもとに確認していきましょう。
減塩の効果
論文によって効果の程度や対象、条件にばらつきがありますが、高血圧治療ガイドラインが採用しているメタ解析のデータでは、平均食塩摂取減少量=4.6g/日によって、収縮期血圧で約5mmHg、拡張期血圧で約2.5mmHgの降圧効果が得られました(F J He et al, Hum Hypertens. 2002: 761-70)。
日本人の食塩摂取量は、国際的に見て多く、徐々に低下傾向であるものの、男性10.8g/日、女性9.1g/日(国民健康・栄養調査:2017年)とガイドラインの減塩目標値である6g/日未満を大きく超えています。
日本では塩はもちろん醤油や味噌などを調味料としてよく使いますが、これらは塩分を含んでいます。またラーメンやうどんなどの麺類、白米のおかずとして魚の干物や漬物も日本人にはお馴染みの食事ですが、塩気が多くなりがちです。
夏は冬に比べると血圧は下がりやすい
夏は発汗により血管内の水分が減るために、全身をめぐる血液量が減り、暑さのために血管も拡がり血管の抵抗が下がります。そのため血液の圧力すなわち血圧は低下します。
季節による血圧変動は高齢者で特に大きく、「75歳以上では夏に比べて冬に約10mmHg上昇していた」という研究報告もあります。
高血圧の方は夏でも減塩が勧められています
夏は発汗により塩分やカリウムなどのミネラルがいくらか失われますが、日本人の食塩摂取量は平均1日10グラム程度と多く、必要量を大きく超えています。
日本高血圧学会は、
「高血圧の方は原則として夏でも適切な減塩が必要で、1日6グラム未満が望まれる」
としています。
とはいえ、高温環境下での作業や運動などでとくに発汗が多い場合には、水分だけを補給すると血液のナトリウムやカリウムが低くなることがあります。
そこで、水分とともにスポーツ飲料や経口補水液などで塩分・ミネラルを補給するのがよいでしょう。
なお、スポーツ飲料で補給の際には糖分の摂り過ぎになることがあるため、糖尿病の方などは、経口補水液の方が望ましいです。
熱中症の危険が高い時は熱中症対策優先で!
前項では基本的な考え方を説明しましたが、現実的には「塩分制限に注意しながら熱中症対策で適宜塩分をとる」というのは、なかなか難しい部分もあります。
高血圧の方が血圧管理のために減塩することは、高血圧による長期的な悪影響を減らすことが目的です。
一方、熱中症は、「高温多湿な環境に長くいることで、徐々に体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態」を指します。
これは高血圧よりもずっと短期的な悪影響の話です。
10年、20年後に脳梗塞や心筋梗塞などを起こしにくくするために、厳格な塩分管理をした結果、熱中症で倒れてしまっては本末転倒です。
「日常的には減塩を心がけ、熱中症のリスクが高い状況ではしっかり塩分も補給していく」
というのが、現実的な対応ではないかと思います。
特にコロナ禍の現在は、猛暑の中、マスクをつける必要がある方も少なくありません。
こまめな水分補給はもちろんのこと、適切な塩分補給も重要です。
業務上、熱中症のリスクが高く、塩分制限が逆に危険な場合もあると思います。その場合には、少なくとも、熱中症のリスクが高い時期には、塩分制限は少し緩めでいいと思います。
それで血圧が上がってしまうようであれば、短期的にはお薬の調整で管理するのも可能ですので、主治医の先生と相談してみてはいかがでしょうか。
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