新型コロナウイルス感染症が依然として猛威を振るう中、高い有効性が期待できるワクチンが開発されたとの報道を耳にされた方は多いかと思います。
またインフルエンザや肺炎球菌、麻疹や風疹、おたふくかぜなどいろいろな病気でワクチンを耳にしたり、実際に打ったりしていると思います。
「ワクチンは病気にかからないように使う薬」ということは知っているものの、どんな仕組みで病気を防いでいるか、実はワクチンにもいろいろ種類があること、などについてはよく知らない方が多いかと思います。
今回は、ワクチンの種類や仕組み、作り方についてまとめていきたいと思います。
ワクチンとは?
わたしたちのまわりには目には見えない細菌やウイルスなどさまざまな病気を引き起こす原因となる微生物が無数に存在します。このような微生物を「病原体といいます。
病原体がからだの中に入ると病気になってしまうことがあります。
そこで私たちのからだは、病原体が簡単に体の中に入らないように皮膚や毛、分泌物などで守っています。
また、過去に一度入ってきた病原体が再び体の中に入ってきても病気にならないようにするしくみがあります。
このしくみを「免疫」といいます。
私たちは一度入ってきた病原体を覚えて、からだの中で病原体と戦う準備を行います。そうすることで、再度、病原体が体の中に入っても病気にかからない、もしくは病気にかかっても重症化しないようにしているのです。
このしくみを利用したのがワクチンです。
ワクチンを接種することで、わたしたちのからだは病原体に対する免疫を作り出します。
ただし、通常の感染のように実際にその病気を発症させるわけではなく、病原体の毒性を弱めたり、無毒化したりすることで、安全な状態で免疫を作ります。
このようにして、いざ病原体が入ってきたとしてもあらかじめ備わった免疫で退治できるようになります。
ワクチンの種類
ワクチンには、次の3種類があります。
① 生ワクチン
生ワクチンは、生きたウイルスや細菌の病原性(毒性)を、症状がでないようにできるだけ弱くしたワクチンです。
弱毒化された病原体が体内で増殖するため、ワクチン接種後しばらくして発熱や発疹などの症状がでる場合があります。
自然感染に近い状態で免疫がつけられるので、ワクチンの効果がえられやすいのが特徴です。
現在実施されている生ワクチンには、BCG(結核菌)、風疹ワクチン、麻疹(はしか)ワクチン、水痘(みずぼうそう)ワクチン、おたふくかぜワクチンなどが挙げられます。
② 不活化ワクチン
不活化ワクチンは、ウイルスや細菌の病原性(毒性)を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけを製剤にしたものです。
ワクチンによっては、さらにその中から有効成分だけ取り出したものもあります。
不活化ワクチンは生ワクチンのように接種後体内で増殖することがないため、安全性は高いのが特徴です。
生ワクチンと比較してワクチンの効果が低いため、1回の接種では十分な免疫が得られず、複数回の接種が必要になることもあります。
不活化ワクチンの例としては、インフルエンザ、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、肺炎球菌、不活化ポリオ、などが挙げられます。
③ トキソイド
トキソイドは病原体(細菌)ではなくそこから出る細菌毒素だけを取り出し、処理を行って無毒化した製剤です。
免疫を作る能力を維持する一方で有毒な毒素はありません。不活化ワクチンと同様に複数回の接種が必要となります。
トキソイドの例としては、破傷風やジフテリアがあります。
インフルエンザワクチンの作り方
ワクチンの中でも馴染みのあるインフルエンザワクチンがどのように作られているかみていきましょう。
インフルエンザワクチンは先ほどの分類でいくと2番目の不活化ワクチンに該当します。
インフルエンザワクチンは、特殊な施設の中でワクチン製造のためだけに飼育されたニワトリの卵を使って作られています。ワクチン製造用の受精卵は、生後半年以上、1年以内の若鶏の産んだ品質の良い卵を用います。
ワクチン製造にはヒヨコになる前の卵=「孵化(ふか)鶏卵」を使います。孵化鶏卵はウイルスが生きた細胞に感染して増えるという性質を持っているため、これを用います。
まず受精卵を37度に温め、発育途中の状態にします。
受精卵を温めて10~12日目の孵化鶏卵を消毒し、注射針が通るくらいの小さな穴を開けます。
この穴からインフルエンザウイルスを注射し、穴をふさいでウイルスを増やします。
2日後に、鶏卵の中にたまったウイルス液を集めて、採取します。その後、ウイルスを精製・凝縮し、不活化(感染性をなくす)し、インフルエンザワクチンが完成します。こうして1つの卵からできるインフルエンザワクチンはおよそ1本分です。
インフルエンザワクチンはニワトリの卵から作るために、急な需要の増減に対応した生産調整はなかなか難しいのが実情です。
この問題を解決するため、細胞培養でのワクチンの開発が行われ、一部実用化しています。
細胞培養は動物の腎臓などの細胞から特殊な細胞を作り出し、その細胞にインフルエンザウイルスを感染させてウイルスを増殖させる方法です。
細胞培養でのワクチン製造の場合、培養するための細胞を用意しておけば、いつでも短期間に、大量のワクチンを製造することが可能です。
細胞培養でのインフルエンザワクチン生成に関しては、国立感染症研究所を中心として厚労省の分科会で検討されており、早期の一般化が期待されます。
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