マンジャロを超えた?次世代の肥満治療薬「レタトルチド」とは ~平均28%の体重減少を達成した注目の新薬~
肥満症治療の世界では、ここ数年で大きな変化が起きています。
GLP-1受容体作動薬である「オゼンピック/ウゴービ(セマグルチド)」や、GIP/GLP-1受容体作動薬である「マンジャロ/ゼップバウンド(チルゼパチド)」の登場により、薬による減量効果は飛躍的に向上しました。
そして今、さらにその先を行く可能性を秘めた新薬として注目されているのがレタトルチドです。
2026年に公表された「TRIUMPH-1試験」のトップライン結果では、平均28.3%という驚異的な体重減少効果が報告され、大きな話題となっています。これは体重100kgの方であれば約28kgの減量に相当します。今回はこの結果も交えながらレタトルチドの特徴、新規性について解説していきたいと思います。
💡 この記事の3大ポイント
- 次世代の肥満症治療薬「レタトルチド」は、驚異の平均28.3%の減量効果を達成。
- 「食欲を抑える」だけでなく、「脂肪を燃焼してエネルギー消費を増やす」画期的な仕組み。
- わずか半年で高用量使用群では約8割の患者さんの肝脂肪率が正常範囲まで改善。
目次📕
レタトルチドとは?
レタトルチドは、米国の製薬会社イーライリリーが開発している週1回注射の肥満症治療薬です。
最大の特徴は、3種類のホルモン受容体に同時に作用する「トリプルアゴニスト」であることです。
従来の薬との違いを簡単にまとめると次のようになります。
- オゼンピック/ウゴービ:GLP-1に作用
- マンジャロ/ゼップバウンド:GLP-1+GIPに作用
- レタトルチド:GLP-1+GIP+グルカゴンに作用
GLP-1やGIPによる食欲抑制に加え、グルカゴンによってエネルギー消費を増やす作用が期待されており、
「食べる量を減らす」だけでなく、「消費するエネルギーを増やす」
という二方向から体重減少を目指す薬です。
TRIUMPH-1試験とは?
TRIUMPH-1試験*1は、レタトルチドの有効性と安全性を検証するために行われた国際共同第3相試験です。2026年5月にイーライリリー社よりトップライン結果が公表されました*2(現時点ではトップライン結果のみが公表されており、詳細なデータや査読を経た論文はまだ公開されていません)。
対象となったのは、
- 18歳以上の成人
- BMI 30以上
または - BMI 27以上で肥満関連疾患を有する人
で、糖尿病のない成人2,339名が参加しました。
参加者の平均BMIは約38kg/m²、平均体重は約118kgであり、重度の肥満症患者さんが多く含まれていました。
なお、日本人の肥満症患者さんと比較するとかなり高度の肥満を有する集団であり、同じ減量率が日本人でもそのまま得られるとは限りません。
参加者は80週間にわたり週1回の注射を継続し、体重変化が評価されました。
驚異的な減量効果

【80週間後の平均体重変化率】
- プラセボ群:−2.2%
- レタトルチド 4mg群:−19.0%
- レタトルチド 9mg群:−25.9%
- レタトルチド 12mg群:−28.3%
最高用量の12mg群では、体重100kgの人であれば約28kg減少した計算になります。
さらに注目すべき点として、
- 25%以上減量:62.5%
- 30%以上減量:45.3%
- 35%以上減量:27.2%
という結果が得られました。
約2人に1人が体重を30%以上減らしたことになり、これまでの肥満治療薬では見られなかったレベルの効果です。
肥満手術に近い水準の減量効果
従来の肥満症治療薬の体重減少効果と比較すると対象集団や投与量によって報告は異なりますが、
と報告されています。
これに対し、レタトルチドでは平均28%以上の体重減少が確認されました。
この数字は、胃スリーブ術や胃バイパス術で報告される総体重減少率*5(概ね20〜35%)の範囲に近く、一部の肥満外科手術で報告される減量効果に近い水準です。ただし、肥満外科手術では糖尿病寛解や長期予後改善など薬物療法とは異なるメリットもあり、単純な優劣比較はできません。
また、TRIUMPH-1試験では、ベースラインのBMIが35以上の患者さんを対象とした事前規定の延長解析が行われています。レタトルチド 12mgを104週間継続した患者さんでは平均30.3%の体重減少、80週時点以降も体重減少効果が維持され、さらなる減量が期待できる可能性が示されました。
副作用は?
副作用は現在使用されているGLP-1受容体作動薬とほぼ同様です。
主な症状として、
- 吐き気
- 嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 胃もたれ
などの消化器症状が報告されています。
また、一部では皮膚のピリピリ感や違和感もみられています。
なぜレタトルチドはここまで強力なのか?
レタトルチドは、GLP-1・GIP・グルカゴンの3つの受容体に同時に作用する世界初のトリプルアゴニストです。
では、それぞれのホルモンはどのような役割を持ち、なぜ組み合わせることでこれほど大きな減量効果が得られるのでしょうか。
GLP-1、GIP、グルカゴンの働き
レタトルチドの強力な体重減少効果の結果についての概要はここまでお話しした通りですが、ここからはなぜここまでの効果が得られたのか、トリプル製剤のコンセプトはいかなるものか、などについてそれぞれのホルモンの働きについて触れながらもう少し詳しく説明していきます。
①GLP-1の働き

GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1:グルカゴン様ペプチド-1)は、私たちの体内で食事をした後に小腸から分泌されるホルモンの一種です。食事によって血糖値が上昇すると、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促し、血糖値を適切な範囲に保つ役割を果たします。また、血糖値を上げる働きを持つホルモンであるグルカゴンの分泌を抑えることで、血糖値の上昇を防ぐ効果もあります。
さらにGLP-1には、脳の満腹中枢に作用して食欲を抑える働きがあります。加えて、胃の内容物が小腸へ送られる速度をゆるやかにするため、食後の満腹感が長く続きやすくなります。その結果、自然に食事量が減少し、体重管理にも役立ちます。近年注目されているGLP-1受容体作動薬は、このGLP-1の作用を強めたり持続させたりする薬です。もともとは2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、優れた減量効果が認められたことから、現在では肥満症治療にも広く活用されています。GLP-1は血糖コントロールと体重管理の両面で重要な役割を担うホルモンとして注目されています。
②GIPの働き

GIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide:グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)は、GLP-1と同じく食事をすると小腸から分泌されるホルモンで、「インクレチン」と呼ばれるホルモンの一種です。食べ物が腸に届くと分泌され、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促進します。これにより食後の血糖値の上昇を抑える役割を果たしています。GIPは、血糖値が高いときにのみ強く作用するため、過剰に血糖値を下げにくいという特徴があります。
近年の研究では、GIPは血糖調節だけでなく、脂肪組織や脳、骨など全身のさまざまな臓器に作用することがわかってきました。脂肪組織ではエネルギー代謝に関与し、脳では食欲や満腹感の調節に関わると考えられています。また、骨の形成や維持をサポートする働きも報告されています。このようにGIPは単なる血糖コントロールのためのホルモンではなく、エネルギーの利用や貯蔵、食欲の調節など、体全体の代謝バランスを保つために重要な役割を担っているホルモンとして注目されています。
③グルカゴンの働き

グルカゴンは、膵臓のランゲルハンス島にあるα(アルファ)細胞から分泌されるホルモンで、主な役割は体内のエネルギー供給を維持することです。一般には「血糖値を上げるホルモン」として知られていますが、その働きは血糖調節だけにとどまりません。
グルカゴンが分泌されると、まず肝臓に作用してグリコーゲンの分解や糖新生を促進し、血液中へブドウ糖を放出します。これにより血糖値が上昇し、空腹時や運動時でも脳や筋肉に必要なエネルギーを供給できます。また、アミノ酸代謝を促進する作用も持っています。
さらに脂肪組織では脂肪分解と熱産生を促進し、蓄積された脂肪をエネルギーとして利用しやすくします。この作用は近年の肥満症治療薬開発において特に注目されているポイントです。心臓では心拍出量や収縮力を高める作用があり、腎臓では糸球体濾過量を増加させる働きが報告されています。また、消化管では腸の運動を抑制し、胆汁の流れを調節するオッディ括約筋を弛緩させる作用もあります。
加えて、グルカゴンは中枢神経系にも作用し、食欲やエネルギー代謝の調節に関与していることがわかってきました。このようにグルカゴンは単なる「血糖値を上げるホルモン」ではなく、肝臓、脂肪組織、心臓、腎臓、消化管、脳など全身に働きかけながら、エネルギー代謝を総合的にコントロールする重要なホルモンです。
なぜ一見作用が相反する3つのホルモンを組み合わせた?
一見すると、
- GLP-1 → 血糖を下げる
- グルカゴン → 血糖を上げる
という働きを持ったホルモンなので組み合わせることは矛盾しているように見えます。
しかし実際には、肥満症治療で狙っているのは「血糖」だけではなく、エネルギー収支全体です。
なぜグルカゴンを加えたのか
従来のGLP-1製剤は、
- 食欲低下
- 胃排出遅延
によって「摂取カロリーを減らす」ことが主な作用でした。しかし食べられなくなることで半ば強制的に食事制限をしただけでは体重だけでなく筋肉量も減少してしまう可能性があります。

今も昔も減量の基本は、適切な食事療法と運動習慣の継続です。
とはいえ食事制限を厳格にするのは大変だし、運動や筋力トレーニングで代謝を上げる努力も辛いわけで、だからなかなかうまくいかないわけですよね。
で、GLP-1製剤やGLP-1+GIP製剤は摂取カロリーのコントロールには成功していたわけですが、ダイエットをすると、体は「これ以上やせないようにしよう」として基礎代謝を下げる方向に働きます。これを「代謝適応(metabolic adaptation)」と呼びます。
そのため最初は順調に体重が減っても、途中から体重が減りにくくなる「停滞期」が起こります。

一方グルカゴンには
- 脂肪分解促進
- 熱産生増加
- エネルギー消費増加
という作用があります。そのため代謝の低下(metabolic adaptation)を部分的に打ち消している可能性があり、これがレタトルチドの大きな体重減少効果に寄与している可能性があります。
脂肪肝を減らす報告も
さらにグルカゴンは特に肝臓でよく作用することが知られており、この効果から第2相臨床試験ではレタトルチドの投与により脂肪肝の減少も確認されています*6。
脂肪肝の割合が10%以上の患者を対象に、レタトルチドを24週間投与したところ、以下のような劇的な脂肪肝の減少が確認されました。
| 投与量 | 24週間後の肝臓脂肪の平均減少率 | 肝臓脂肪が正常値(5%未満)に回復した割合 |
|---|---|---|
| 1 mg | -42.9% | 27% |
| 4 mg | -57.0% | 52% |
| 8 mg | -81.4% | 79% |
| 12 mg | -82.4% | 86% |
中でも高用量(8mgおよび12mg)を投与されたグループでは、約8割の患者さんで肝脂肪率が正常範囲まで改善しました。
減量のダブルアクセル
レタトルチドは
「食欲を抑えるGLP-1/GIP製剤」と「代謝亢進効果のあるグルカゴン」
を同時に使うことで、
「摂取カロリーを減らす」と「消費カロリーを増やす」という
体重減少のアクセルを2つ同時に踏む
という発想になっています。
レタトルチドでは体重減少の大部分は脂肪量の減少によるものと考えられています。しかし、他の肥満症治療薬と同様に一定程度の除脂肪体重(筋肉量を含む)の減少も認められており、筋肉量を維持するためには十分なタンパク質摂取や筋力トレーニングが重要と考えられています。
DXA(Dual-Energy X-ray Absorptiometry:二重エネルギーX線吸収測定法)を用いた第2相試験のサブ解析では、減少した体重の約3割前後が除脂肪体重(体脂肪を除いた筋肉・骨・内臓・体液などの組織)であったと報告*7されています。
じゃあ血糖は上がらないの?
ここが重要です。グルカゴン単独なら血糖は上昇します。
しかし、レタトルチドでは
- GLP-1
- GIP
が同時にインスリン分泌を促進します。そのためグルカゴンによる血糖上昇作用はかなり打ち消されます。
イメージとしては
グルカゴンによって
↑血糖
↑脂肪燃焼
↑熱産生
GLP-1/GIPによって
↓血糖
↓食欲
↑インスリン
というバランスにすることで血糖上昇を抑えつつ、脂肪燃焼作用を利用する設計になっているのです。
実は「完全な逆作用」ではない
最近の研究では、グルカゴン受容体刺激による体重減少は
単なる脂肪分解だけでなく
- 褐色脂肪組織活性化
- 肝臓でのエネルギー消費増加
- 食欲抑制への中枢作用
も関与していると考えられています。
つまり従来の「グルカゴン=血糖を上げるホルモン」という理解よりも、
「グルカゴン=エネルギー消費を高める代謝ホルモン」
という側面が注目されるようになっているのです。
なぜGIPも必要なのか
さらに興味深いのはGIPです。
昔は「GIPは脂肪をためるホルモン→だから肥満治療には不向き」
と思われていました。
ところが実際GLP-1と組み合わせてみると
- 食欲抑制増強
- インスリン分泌増強
- 悪心軽減
が起こり、
チルゼパチド(ゼップバウンド)が成功しました。
その流れで
GLP-1+GIP+グルカゴンと3剤を併用。
GLP-1とGIPが食欲抑制と血糖コントロールを担い、
グルカゴンがエネルギー消費促進を担うことで、
それぞれの欠点を相殺しながら長所をうまく引き出したのが、レタトルチドが強力な体重減少効果を示した本質と考えられています。
日本で使えるようになるのはいつ?
2026年6月現在、日本では未承認であり自由診療でも使用することはできません。
今後、各国で承認申請が進められる見込みであり、日本での実用化にも期待が集まっています。
まとめ
レタトルチドは、GLP-1・GIP・グルカゴンの3つに作用する世界初のトリプルアゴニストです。
TRIUMPH-1試験では、
- 平均28.3%の体重減少
- 約半数が30%以上減量
- 肥満外科手術に近い水準の減量効果
という非常に優れた結果が示されました。
レタトルチドはまだ日本では承認されていませんが、肥満症治療が大きな転換期を迎えていることを感じさせる薬剤です。かつては「ダイエットは本人の努力次第」と考えられがちでしたが、近年の研究によって、肥満症はホルモンや脳の働き、遺伝的要因などが複雑に関わる疾患であることが明らかになってきました。
もちろん、どれほど優れた薬が登場しても、食生活の見直しや運動習慣の改善といった基本が重要であることに変わりはありません。しかし、これまで努力だけでは十分な結果が得られなかった方にとって、この新しい治療薬は大きな助けになる可能性があります。
肥満症は糖尿病や高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群など多くの病気と深く関係しています。「体重が気になる」「健康診断で指摘を受けた」という方は、お気軽にご相談ください。患者さん一人ひとりに合った方法を一緒に考えていきたいと思います。
*文中で一般名:セマグルチドをウゴービ/オゼンピックと併記、同様に一般名:チルゼパチドをゼップバウンド/マンジャロと併記しています。どちらも同一成分ですが前者が肥満症、後者が糖尿病として治療を行う場合の商品名になります。糖尿病治療薬として最初に販売されたこともあり糖尿病治療薬での名称の方が認知度が高いと理解していますが、今回は肥満症治療としての記事でしたので前者を主として記載しました。
参考文献
*1 A Study of Retatrutide (LY3437943) in Participants Who Have Obesity or Overweight (TRIUMPH-1)
*2 イーライリリー社プレスリリース Lilly announces positive topline Phase 3 results from TRIUMPH-1 trial
*3 Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. N Engl J Med 2021 Mar 18;384(11):989-1002. John P. H. Wilding, et al.
*4 Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2022 Jul 21;387(3):205-216.
Ania M Jastreboff, et al.
*5 What Is Weight Loss After Bariatric Surgery Expressed in Percentage Total Weight Loss (%TWL)? A Systematic Review. Obes Surg . 2021 Aug;31(8):3833-3847. Anne-Sophie van Rijswijk, et al.
*6 Triple hormone receptor agonist retatrutide for metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease: a randomized phase 2a trial. Nat Med . 2024 Jul;30(7):2037-2048. Arun J. Sanyal, et al.
*7 Effects of retatrutide on body composition in people with type 2 diabetes: a substudy of a phase 2, double-blind, parallel-group, placebo-controlled, randomised trial. Lancet Diabetes Endocrinol . 2025 Aug;13(8):674-684. Tamer Coskun, et al.
この記事の執筆者

乾 恵輔(いぬい けいすけ) 乾小児科内科医院 院長
【保有資格】
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
- 日本循環器学会認定 循環器専門医
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