SGLT2阻害薬とは?効果・副作用と心臓・腎臓を守る働き
SGLT2阻害薬は、尿に糖を出すことで血糖値を下げる薬です。
日本では2014年から糖尿病の治療に使われるようになりました。
登場した当初は、「これまでとは少し違った仕組みで血糖を下げる、新しい糖尿病治療薬」という位置づけでした。
ところが、その後ちょっと意外なことがわかってきます。
血糖値が下がるだけではなく、体重や血圧にもよい影響があり、さらに研究を重ねるうちに、心不全を減らし、腎臓の機能低下も抑えることが明らかになってきたのです。
その結果、SGLT2阻害薬の立ち位置は、この10年ほどで大きく変わりました。
現在では単なる「血糖を下げる薬」ではありません。
心不全や慢性腎臓病(CKD)では、糖尿病のない患者さんに使われることさえあります。
糖尿病の薬として生まれた薬が、どうして心臓や腎臓の治療にも使われるようになったのでしょうか。
今回は、SGLT2阻害薬のちょっと変わった仕組みから、現在わかっている効果、副作用、服用するときの注意点まで解説します。
この記事の目次
- SGLT2阻害薬は、なぜ血糖値を下げるの?
- どのくらい糖が尿に出るの?
- 血糖値だけでなく、体重や血圧にもよい影響があります
- 「心不全が減る」という意外な結果
- さらに「腎臓も守る」ことがわかってきた
- 「血糖・心臓・腎臓」をまとめて考える時代へ
- もちろん、いいことばかりではありません
- 「血糖値が高くないから大丈夫」とは限らない
- 体調が悪くて食べられない日はどうする?
- 腎臓が悪いのに、本当に飲んで大丈夫?
- SGLT2阻害薬は、この10年でずいぶん出世した薬です
SGLT2阻害薬は、なぜ血糖値を下げるの?
まずは、この薬の仕組みから見てみましょう。
私たちの腎臓では、血液がろ過されて「原尿」という尿のもとが作られています。
実は、この原尿の中にはブドウ糖も含まれています。
「それなら健康な人でも尿糖が出るのでは?」
と思いますよね。
ところが、そうはなりません。
ブドウ糖は身体にとって大切なエネルギー源です。そのまま尿に捨ててしまうのはもったいないので、腎臓はいったん原尿に出たブドウ糖を、ほとんど血液中へ回収しています。
この「糖を回収する」仕事で大きな役割を担っているのが、SGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)というタンパク質です。

SGLT2阻害薬は、その働きをブロックします。
すると、本来なら血液に戻るはずだった糖が戻れなくなり、そのまま尿と一緒に身体の外へ出ていきます。
つまり、かなり大ざっぱに言えば、
「余った糖を、尿に捨ててしまおう」
という薬です。
インスリンを直接増やして血糖を下げる薬ではなく、主に腎臓に働きかけて糖を身体の外へ出す。
ここがSGLT2阻害薬の大きな特徴です。
どのくらい糖が尿に出るの?
SGLT2阻害薬を飲むと、1日に数十g程度のブドウ糖が尿から排泄されるようになります。
ブドウ糖1gは約4kcalですから、毎日それなりのカロリーが尿と一緒に身体の外へ出ていくことになります。
そのため、血糖値が下がるだけではなく、体重も少し減ります。
「それなら、かなりダイエットにも効くのでは?」
と思うかもしれません。
残念ながら、そこまで都合よくはいきません。
体重減少には個人差があり、しばらくすると減り方も緩やかになります。SGLT2阻害薬はあくまで治療薬であって、「飲んでいればどんどん痩せる薬」ではありません。
食事や運動が大切なのは、やはり変わりません。
ちなみに、SGLT2阻害薬を飲んでいると、薬の作用によって尿糖が陽性になります。
健康診断などで尿糖を見て、
「糖尿病がものすごく悪くなった!」
とびっくりする方がいますが、これは薬が糖を尿に出しているためです。
SGLT2阻害薬を服用している方では、尿糖だけを見て糖尿病の状態を判断することはできません。詳しくは尿検査で糖が出たら糖尿病?1+や2+の意味は?もご覧ください。
血糖値だけでなく、体重や血圧にもよい影響があります
糖を尿に出すので、まず血糖値が下がります。
しかもインスリン分泌を直接刺激する薬ではないため、SGLT2阻害薬だけで低血糖を起こすことは多くありません。
もちろん、インスリンやSU薬などと一緒に使っている場合には低血糖に注意が必要です。
さらに、体重も少し減ります。
糖と一緒にナトリウムや水分の排泄も増えるため、血圧も数mmHg程度下がることがあります。
ここまでは、この薬の仕組みから何となく想像できます。
ところが、SGLT2阻害薬が本当に面白いのはここからです。
「心不全が減る」という意外な結果
SGLT2阻害薬の評価を大きく変えるきっかけの一つとなったのが、2015年に発表されたEMPA-REG OUTCOME試験でした。
心血管疾患のある2型糖尿病患者さんを対象にした研究で、エンパグリフロジン(ジャディアンス)を使用した患者さんでは、心血管死が38%、心不全による入院が35%少ないという結果が示されました。
「血糖を下げる薬なのに、なぜこんなに心不全が減るのだろう?」
ここからSGLT2阻害薬を見る目が大きく変わっていきます。
その後、DAPA-HFやEMPEROR-Reducedによって、心臓の収縮力が低下した心不全(HFrEF)そのものに対する有効性が確認されました。
さらにEMPEROR-PreservedやDELIVERでは、心臓の収縮力が比較的保たれている心不全(HFpEF)でも、心不全による入院などを減らすことが示されました。
そして重要なのは、こうした効果が糖尿病のある人だけに認められたわけではないということです。
糖尿病がなくても効果が認められました。
こうしてSGLT2阻害薬は、「糖尿病治療薬」であると同時に、心不全の治療薬という新しい顔を持つようになりました。
現在では、心臓の収縮力が低下したHFrEFだけでなく、HFmrEFやHFpEFでも重要な治療薬に位置づけられています。
心不全の患者さんにSGLT2阻害薬を処方すると、
「先生、私は糖尿病なんですか?」
と聞かれることがあります。
でも、糖尿病とは限りません。
今では、心臓を守る目的でSGLT2阻害薬を使うことも珍しくないのです。
さらに「腎臓も守る」ことがわかってきた
心臓だけではありません。
SGLT2阻害薬は、慢性腎臓病(CKD)の治療も大きく変えました。
腎臓には「糸球体」という小さなフィルターがあります。
糖尿病などによって、このフィルターに強い圧力がかかり続けると、少しずつ腎臓が傷んでいきます。
SGLT2阻害薬には、この糸球体にかかる過剰な圧力を和らげる働きがあります。
その結果、アルブミン尿を減らし、腎機能が低下していくスピードを遅らせることがわかってきました。
この分野でも、大規模な研究が治療を大きく変えています。
代表的なのがDAPA-CKD試験とEMPA-KIDNEY試験です。
EMPA-KIDNEYには6,609人の慢性腎臓病患者さんが参加し、その半数以上は糖尿病のない人でした。それでもエンパグリフロジンによって、腎臓病の進行または心血管死のリスクが約28%低下しました。
つまりSGLT2阻害薬の腎保護作用は、単純に
「血糖値が下がったから、腎臓にもよかった」
というだけでは説明できないのです。
その考え方は、現在のガイドラインにも反映されています。
2026年の米国糖尿病学会(ADA)のガイドラインでは、2型糖尿病に慢性腎臓病を合併している場合、eGFR 20mL/min/1.73m²以上で、腎保護効果が確認されているSGLT2阻害薬を使用することが推奨されています。
腎機能が低下してくると、SGLT2阻害薬の「血糖を下げる力」は次第に弱くなります。
それでも心臓や腎臓を守る効果は期待できる。
ここにも、SGLT2阻害薬が単なる血糖降下薬ではなくなったことがよく表れています。
「血糖・心臓・腎臓」をまとめて考える時代へ
糖尿病治療そのものの考え方も、この10年ほどでかなり変わりました。
以前は、
「HbA1cが高いから、次はどの薬で血糖値を下げようか」
という考え方が中心でした。
もちろん、血糖コントロールが重要なのは今も変わりません。
しかし現在は、HbA1cだけを見て薬を選ぶわけではありません。
その患者さんに心不全があるのか。慢性腎臓病があるのか。動脈硬化性心血管疾患のリスクが高いのか。
そうしたことまで考えて薬を選びます。
2026年には、米国心臓協会(AHA)、米国心臓病学会(ACC)、米国糖尿病学会(ADA)、米国腎臓学会(ASN)が共同で、心臓・腎臓・代謝を一体として考えるCKM(Cardiovascular-Kidney-Metabolic)症候群のガイドラインを発表しました。
糖尿病、心臓病、腎臓病は、それぞれ別々の病気として存在しているわけではなく、互いに深く影響し合っています。
SGLT2阻害薬は、まさにこの考え方を象徴するような薬です。
血糖を下げながら、心臓と腎臓も守る。
現在のSGLT2阻害薬は、そういう視点で使われる薬になっています。
もちろん、いいことばかりではありません

ここまで読むと、かなり優秀な薬に見えると思います。
実際、とても重要な薬なのですが、注意しなければならないこともあります。
まず、尿の回数が増えることがあります。
糖が尿に出るときには水分も一緒に出ていくため、人によってはトイレが近くなったり、のどが渇いたりします。
特に暑い時期や高齢の方、もともと利尿薬を飲んでいる方では、脱水や血圧低下に注意が必要です。
もう一つ特徴的なのが、性器感染症です。
尿に糖が多く含まれるようになるため、カンジダなどの性器感染症が起こりやすくなります。
かゆみや痛みなど、いつもと違う症状が出た場合には早めに医療機関へ相談してください。
そして、頻度は高くありませんが、SGLT2阻害薬を飲んでいる方にぜひ知っておいてほしい副作用があります。
正常血糖ケトアシドーシスです。
「血糖値が高くないから大丈夫」とは限らない
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は、インスリンの作用が大きく不足することでケトン体が増え、血液が酸性に傾いてしまう危険な状態です。
通常は高い血糖値を伴います。
ところがSGLT2阻害薬を飲んでいると、血糖値がそれほど高くないのにケトアシドーシスを起こすことがあります。
これが正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA)です。
特に注意したいのが、発熱や胃腸炎などで食事がほとんど取れないときです。
嘔吐や下痢が続いている、脱水している、長時間食べていない、極端な糖質制限をしている――こうした状況ではリスクが高くなります。
吐き気、腹痛、強いだるさ、息苦しさなどがある場合には、
「血糖値はそんなに高くないから大丈夫」と自己判断しないことが大切です。
体調が悪くて食べられない日はどうする?
糖尿病の患者さんが発熱や嘔吐、下痢などで体調を崩した状態を「シックデイ」と呼びます。
SGLT2阻害薬を飲んでいる方にとって、このシックデイへの対応はとても重要です。
食事や水分が十分に取れない状態でSGLT2阻害薬を飲み続けると、脱水やケトアシドーシスのリスクが高くなることがあります。
SGLT2阻害薬を服用している方へ
発熱、嘔吐、下痢などで食事や水分が十分に取れないときは、SGLT2阻害薬を一時的に休薬することがあります。
吐き気、腹痛、強いだるさ、息苦しさなどがある場合には、血糖値がそれほど高くなくても医療機関に相談してください。
また、手術などで長時間の絶食が必要になる場合にも、事前の休薬が必要です。
予定手術では通常、SGLT2阻害薬を手術の3~4日前から中止することが推奨されています。
大切なのは、
「具合が悪くても、処方された薬だから全部いつも通り飲まなくてはいけない」
と考えないことです。
SGLT2阻害薬を処方されたら、体調を崩したときにどうするのかも、あらかじめ主治医に確認しておきましょう。
腎臓が悪いのに、本当に飲んで大丈夫?
診察室でもよく聞かれる質問です。
「腎臓に作用する薬なのに、腎臓が悪い人が飲んでも大丈夫なんですか?」
たしかに、少し不思議ですよね。
SGLT2阻害薬を開始すると、eGFRが最初に少し低下することがあります。
検査結果だけを見ると、
「薬を飲んだら腎臓が悪くなった!」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、この初期の変化は糸球体にかかっていた過剰な圧力が下がることなどによって起こります。
そして長い目で見ると、むしろ腎機能が低下していくスピードを緩やかにすることがわかっています。
そのため現在では、
「腎臓が悪いからSGLT2阻害薬を使わない」ではなく、「腎臓を守るためにSGLT2阻害薬を使う」
という場面が増えています。
もちろん、どんな腎機能でも同じように使えるわけではありません。
薬剤や病気によって保険適用や開始できる腎機能の基準も異なりますので、血液検査や尿検査を確認しながら使用します。
SGLT2阻害薬は、この10年でずいぶん出世した薬です

SGLT2阻害薬が日本に登場した2014年ごろは、
「尿に糖を出して血糖値を下げる、ちょっと変わった糖尿病の薬」
という印象でした。
それから10年以上。
研究を重ねるうちに心不全を減らすことがわかり、さらに腎臓の機能低下も抑えることが明らかになりました。
今では糖尿病がなくても、心不全や慢性腎臓病の治療として使われることがあります。
糖尿病の薬として生まれたのに、いつの間にか心臓と腎臓の治療でも重要な存在になっていた。
なかなか面白い薬だと思います。
一方で、脱水や性器感染症、正常血糖ケトアシドーシスなど、SGLT2阻害薬ならではの注意点もあります。
特に覚えておいてほしいのは、発熱や嘔吐、下痢などで食事や水分が十分に取れないときです。
そんなときは無理にいつも通り飲み続けず、休薬が必要かどうか主治医に確認してください。
SGLT2阻害薬は、正しく使えば血糖値だけでなく、その先にある心臓や腎臓まで守ってくれる可能性のある薬です。
「何のためにこの薬を飲んでいるのか」
そこまで知っておくと、毎日の薬の見え方もちょっと変わってくるかもしれません。
参考文献
- Zinman B, et al. Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2015.
- McMurray JJV, et al. Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction. N Engl J Med. 2019.
- Heerspink HJL, et al. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020.
- Anker SD, et al. Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2021.
- The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2023.
- American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. Chronic Kidney Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026.
- Ndumele CE, et al. 2026 AHA/ACC/ADA/ASN Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of Cardiovascular-Kidney-Metabolic Syndrome. J Am Coll Cardiol. 2026.
この記事の執筆・監修者

乾 恵輔(いぬい けいすけ) 乾小児科内科医院 院長
【保有資格】
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
- 日本循環器学会認定 循環器専門医
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
院長よりメッセージ: SGLT2阻害薬は、糖尿病だけでなく心臓や腎臓にも作用する薬です。私は糖尿病専門医であると同時に循環器専門医でもあるため、血糖値だけでなく心臓や腎臓の状態も含めて、この薬が本当に必要か、どのように使うべきかを総合的に判断できます。「なぜこの薬を飲むことになったのか」を含めてご説明しますので、気になることがあればお気軽にご相談ください。
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