「生涯で拍動できる心拍数は決まっている」は本当か
時々外来で、「こんなに脈がはやいと寿命が縮まないか心配です」といった話を伺うことがあります。
たしかにあまり脈が速い状態が続くと体に負担が掛かりそうですが、実際どうなのでしょうか。今回は心拍数と寿命について考えていきたいと思います。
心拍数が20億回になると寿命が尽きる説
1992年に発売されてベストセラーとなった「ゾウの時間 ネズミの時間」(本川達夫、中公文庫)という本の中に「哺乳類ではどの動物でも、一生の間に心臓は20億回打つ」という計算が紹介されています。そのため、同じ哺乳類の「人間の寿命も心拍数20億回」説が広まったと考えられています。
人間の成人の安静時の心拍数は、1分間に60~100回とされていますが、平均的には60~70回で、85回以上は比較的まれです。哺乳類では、ハツカネズミの心拍数は1分間に約600~700回で寿命は2~3年、ネコの心拍数は1分間に約120~180回で寿命は約10~15年、ゾウの心拍数は1分間に約30回で寿命は約70~80年と言われています。

このことから、一般に心拍数が早い動物の寿命は短く、心拍数が遅い動物の寿命は長いと考えられます。
心拍数20億回説は現代に当てはまる!?
人間にもこの考え方を当てはめて、1分間の心拍数を平均70回/分、総心拍数20億回として計算すると、54.3年とだいたい終戦直後ぐらいの日本人の平均寿命に該当します。
そう考えると、生物学的な人間本来の寿命は、生まれてからの総心拍数によってある程度は決まってくるのかもしれません。
脈が速いと死亡リスクが高くなるとの研究報告が国内外にいくつもあります。
代表的なものに、岩手県大迫町(現在は花巻市)の追跡調査で、血圧が正常でも心拍数が1分間に70回以上の人はそうでない人よりも心臓病による死亡リスクが約2倍になる、という研究報告があります[ Hozawa A, et al. Am J Hypertens. 2004 17(11):1005-10]。
とはいえ、2020年の日本人の平均寿命は男性で81.6歳、女性で87.7歳。1分間の心拍数を平均70回/分として換算すると、総心拍数は30億回に達します。
栄養状態や衛生環境、医療の進歩など、様々な寿命に影響を与える因子が改善されたことが原因として考えられ、一概に心拍数だけで寿命を語れないことがわかります。
心拍数は自律神経のコントロールを受けている
心拍数の増減は自律神経によってコントロールされており、心因的なストレス、喫煙、飲酒、大量のカフェイン摂取時、運動時には心拍数を上げ、逆にリラックスしているときには心拍数を下げるようになっています。
かくれた病気のせいで心拍数が上がることも
自律神経に働きかける生活習慣以外にもかくれた病気が原因で心拍数が上がることもあります。
具体的には
- ・高血圧
- ・貧血
- ・狭心症、心筋梗塞などの冠動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)、心臓弁膜症、心不全、心筋症などの心臓病
- ・甲状腺疾患
- ・糖尿病
などが原因として考えられます。
このように、心拍数は心身の健康状態を反映しているとも考えられます。もし心拍数80回/分以上が続いている場合は、何か病気が隠れている可能性もあります。病院を受診して検査を受けてみてはいかがでしょうか?
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