【糖尿病専門医が解説】世界初の経口GLP-1製剤:リベルサス(セマグルチド)の効果と副作用
本日2月5日に、世界初の経口GLP-1受容体作動薬リベルサス(セマグルチド)が発売となりました。
リベルサスは、体内にあるGLP-1というホルモンに似た作用を持ち、血糖値に応じてすい臓からインスリンを分泌させて血糖値を下げる糖尿病治療薬です。
GLP-1受容体作動薬は、いままで注射薬しかなく、経口薬の開発は難しいとされていましたが、ある工夫をすることで実用化に成功しました。
今回は、リベルサスの特徴についてまとめていきたいと思います。
目次
すい臓でのGLP-1の働き

GLP-1はGlucagon Like Peptide-1(グルカゴン様ペプチド-1)という消化管ホルモンで、小腸や大腸に存在しています。
食事をして、消化管の中に食べ物が入ってくると、小腸からGLP-1が分泌され、その一部は、血液の中を流れてすい臓に運ばれます。
すい臓にたどりついたGLP-1は、すい臓に働きかけて、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌を促します。
分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込み、結果的に血糖値を低下させます。
この仕組みはよくできていて、食事をしていないとき、つまり血糖値が高くないときにはGLP-1は分泌されず、インスリンも出てきません。
そのため、低血糖を起こしにくいという特徴があります。
また、すい臓から血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制することでも、血糖値を下げる働きを持ちます。
GLP-1のすい臓以外への作用
GLP-1はすい臓に働きインスリン分泌を促す以外にも糖代謝に重要な働きをしていることが知られています。
1. 胃運動抑制作用:胃の消化運動を遅らせることで食後血糖値の上昇を抑えます
2. 食欲抑制:中枢神経系に働き、食欲抑制効果を介して体重を減少させます。
インスリンを介しての直接的な血糖コントロール改善効果だけでなく、これらの従来の糖尿病薬にはない体質改善効果ともいうべき働きもあることからGLP-1製剤は注目されています。
従来は注射薬しかなかった
いままでGLP-1製剤は、消化管で吸収されにくく、また胃液中の酵素により分解されてしまうため、経口投与は適さないとされ、注射薬しか発売されていませんでした。
注射薬としては6種類のお薬が登場していますが、中でも昨年登場したオゼンピックは体重減少効果が高いことで知られています。
オゼンピックに関しては、以前の記事でも解説しているので、こちらも併せてご覧ください。

2020.07.22
今回、世界初の経口GLP-1製剤として登場したリベルサスはこのオゼンピックが飲み薬になったお薬になります。
リベルサスの吸収メカニズム

リベルサスの錠剤には吸収を補助するためにサルカプロザートナトリウム(通称 SNAC:スナック)と呼ばれる吸収促進剤が配合されています。
配合されているセマグルチドとSNACが胃内に到達すると、セマグルチドとSNACが結合します(1)。
SNACはリベルサスの胃での吸収を促進し、また、pHを上昇させることで胃酸や消化酵素による分解からリベルサスを保護します。
リベルサスの作用機序

通常、生体内のGLP-1はDPP-4という酵素によって速やかに分解されてしまいます。
そこでセマグルチドに代表されるGLP-1受容体作動薬は、GLP-1の構造に少し手を加え、DPP-4に分解されにくくしています。
そのため、すぐに分解されず、長時間作用することができるのです。
GLP-1そのものではなく、お薬として利用できるように構造を少し工夫している、ということで「GLP-1アナログ製剤」とも呼ばれています(アナログとは「類似の」という意味)。
体重減少効果
GLP-1製剤は胃排泄遅延と食欲抑制による体重効果が知られており、特にオゼンピックはその効果が高いことから、経口薬のリベルサスでも同様の効果が得られるか注目されています。
リベルサスの国際共同研究はPIONEER試験シリーズとして、偽薬との比較(PIONNER 1)、SGLT-2阻害薬との比較(PIONEER 2)、注射タイプのGLP-1製剤との比較(PIONEER 4)などPIONNER 10まで発表されています。
体重減少効果自体は研究の主目的ではないものの、検討されています。
PIONEER 1-8ではリベルサス14mgの内服により約1年でおおむね3.5-4kg程度の体重効果が得られたという報告がされています。
これをもとに劇的な体重減少効果を強調している意見も見かけますが、これは主に海外のデータでBMI31-33程度というかなりの肥満者を対象にしており、そのまま日本人に当てはめるのは難しいかもれません。
日本人のデータとしてはPIONEER 9(2)(経口薬1剤もしくは食事療法で治療中の2型糖尿病患者さんを対象とした、リベルサス3mg, 7mg, 14mgとビクトーザ0.9㎎ の比較試験)とPIONEER 10(3)(経口薬1剤もしくは食事療法で治療中の2型糖尿病患者さんを対象とした、リベルサス 3mg, 7mg, 14mg とトルリシティ 0.75㎎/週の比較試験)があります。
PIONEER 9試験
| ベースラインから 26週までの体重の変化量 | リベルサス | ビクトーザ | ||
|---|---|---|---|---|
| 3mg | 7mg | 14mg | 0.9mg | |
| -0.5kg | -1.0kg | -2.4kg | -0.0kg | |
PIONEER 10試験
| ベースラインから 26週までの体重の変化量 | リベルサス | トルリシティ | ||
|---|---|---|---|---|
| 3mg | 7mg | 14mg | 0.75mg | |
| -0.2kg | -1.0kg | -2.2kg | +0.3kg | |
どちらの試験でも経口薬のリベルサスの方が注射薬であるビクトーザやトルリシティよりも高い体重減少効果が得られていました。
*ただし、リベルサスはあくまで糖尿病患者さんに対する治療薬であり、単なる痩せ薬としての使用は禁止されています。
血糖コントロール改善効果
糖尿病治療薬としての強さ、ともいうべき血糖コントロール改善効果についてもみていきましょう。
こちらは日本人2型糖尿病患者さんを対象にリベルサスとプラセボ(偽薬)、ビクトーザの単剤での効果を比較しているPIONEER 9試験のデータ(2)になります。
| ベースラインから 26週までのHbA1cの変化量 | リベルサス | プラセボ | ビクトーザ | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 3mg | 7mg | 14mg | 0.9mg | ||
| -1.1% | -1.5% | -1.7% | -0.1% | -1.4% | |
リベルサスは標準量の7mgでHbA1c -1.5%とかなり強い効果があることがわかります。
副作用
胃腸障害はGLP-1製剤に共通してみられる副作用です。リベルサスのインタビューフォーム(4)をみてみますと、日本人が参加した臨床試験で報告された胃腸障害は25.4%でした。
多い順に
- ・悪心(25.4%)
- ・下痢(10.8%)
- ・便秘(4.3%)
- ・嘔吐(4.3%)
- ・腹部不快感(2.4%)
などとなっています。
容量依存性に副作用が出やすくなるため、少量から開始します。多くの場合、しばらくするとおさまります。
その他、重大な副作用として低血糖(頻度不明)が挙げられています。
GLP-1受容体作動薬は空腹時には働かず、食事をとって血糖値が高くなったときに働くため、低血糖を起こしにくいといわれています。
ただし、SU薬やインスリンと一緒に使う場合は低血糖への注意が必要です。
用法・用量

通常、成人には、セマグルチドとして1日1回7mgを維持用量として経口投与します。
ただし、1日1回3mgから開始し、4週間以上投与した後、1日1回7mgに増量します。
なお、患者さんの状態に応じて適宜増減しますが、1日1回7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1日1回14mgまで増量することができます。
服用にあたっては、添加剤のサルカプロザートナトリウムが胃内容物の影響を受けやすいため、空腹時(1日の最初の飲食の前)に1錠をコップ約半分の水(約120ml以下)とともに服用します。
飲むときの水の量がわざわざ明記されているのは50mLで服用したときに比べて、240mLの水で服用すると血中濃度-時間曲線下面積(AUC)が約40%低下したから(4)です。
120mL以下になった理由は、50mLと120mLで比較した別の試験で、曝露量に大きな影響が見られなかったため(4)です。
服用後は、飲み物を飲んだり、食事をしたり、他のお薬を服用したりする場合は、少なくとも服用後30分程度あける必要があるため、注意が必要です(上述の通り、食事や服用する際の飲水によって、リベルサスの吸収に影響が出てしまうため)。
骨粗鬆症治療薬のビスホスホネート製剤と似たような飲み方になります。
ちなみにリベルサスとプラセボ錠(5錠)を同時に投与した結果、最高血中濃度(Cmax)は32%、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は34%低下したと報告されています(4)。
薬価
薬価収載時(2020年11月18日)の薬価(5)は以下の通りです。
- リベルサス錠3mg:143.20円
- リベルサス錠7mg:334.20円
- リベルサス錠14mg:501.30円
まとめ
リベルサスは初の経口薬として登場したGLP-1作動薬です。
単剤として強力な血糖コントロール改善効果を持ち、体重減少効果も期待できます。
空腹時で内服し、内服後30分は他の飲食ができなくなるというかなり飲みにくい薬で、かつ正しく飲めないと大きく効果が下がってしまう薬ではあるものの、肥満を伴う2型糖尿病患者さんに対しては新たな選択肢になるでしょう。
参考文献
(1) Efficacy, safety and cardiovascular outcomes of once-daily oral semaglutide in patients with type 2 diabetes: The PIONEER programme.
Diabetes Obes Metab. 2020 Aug;22(8):1263-1277
(2) Dose-response, efficacy, and safety of oral semaglutide monotherapy in Japanese patients with type 2 diabetes (PIONEER 9): a 52-week, phase 2/3a, randomised, controlled trial.
Lancet Diabetes Endocrinol. 2020; 8: 377-391
(3) Safety and efficacy of oral semaglutide versus dulaglutide in Japanese patients with type 2 diabetes (PIONEER 10): an open-label, randomised, active-controlled, phase 3a trial.
Lancet Diabetes Endocrinol. 2020; 8: 392-406
(4) 2型糖尿病治療剤 経口GLP-1受容体作動薬 セマグルチド(遺伝子組換え) 医薬品インタビューフォーム
https://www.msd.co.jp/
(5) 新医薬品一覧表(令和2年11月18日収載予定) – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000693022.pdf
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