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心房細動の治療薬と使い分けについて

心房細動は、脈拍が完全に不規則になってしまう不整脈です。
脳梗塞の原因になることが最大の問題で、小渕元首相や長嶋元監督などが心房細動により脳梗塞を起こしたことは有名です。

治療が必要な不整脈の中で最も多く、加齢とともに発症頻度が高くなることが知られていることから高齢化が進む中でますます重要性の高まっていく病気です。

つい先日、日本循環器学会より「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」が発表されましたので、この内容もふまえ、心房細動の治療薬とその使い分けについてまとめていきたいと思います。

心房細動とは?

心房細動は、心房にある心臓が一定のリズムで動くための命令を出している部分が正常に機能しなくなることで、心房がけいれんしたように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる病気です。

心房細動の頻度

過去の統計によると心房細動がある方の頻度は、70 歳代では男性 3.4%,女性 1.1%、80 歳以上では男性 4.4%,女性 2.2%でした。

2005年時点では、全国で71.6 万人が心房細動をもっていると推定されています。

将来の人口予測を用いて計算すると、2050年には心房細動患者さんは約103 万人、総人口の約1.1%を占めると予測されています。

心房細動の何が問題か

心房細動の問題点は主に2つです。

1つ目は、脈が不整であるために心臓内にできる血栓(血の塊)です。血栓が他の臓器に飛んでいくことで突然血管を詰まらせて、脳梗塞や心筋梗塞などを起こします。

特に脳梗塞は全体の20-30%が心房細動によるものと報告されています。
心房細動による脳梗塞は広範囲に麻痺を起こし重症化することも多く問題になります。

2つ目は脈が一定でなかったり、早くなりすぎたり、遅くなりすぎたりすることによる胸の違和感、動悸、フワッとするなどといった自覚症状です。

ただし、心房細動患者さん全体の40-50%、つまり半数近くは自覚症状がないとされており、自覚症状がなければ安心、という訳でもありません。

脳梗塞予防の治療(抗凝固療法)

心房細動になると心房がけいれんするように小刻みに震えて、規則正しい心房の収縮ができなくなります。

心房が規則正しく収縮できないと、心房内で血液の流れがよどみ、血栓ができやすくなってしまいます。

心臓にできた血栓が心臓外へ流れていき、脳の中の大きな血管を突然詰まらせてしまうと脳梗塞を起こします。

心房細動がある方は心房細動のない方と比べると、脳梗塞を発症する確率は約5倍高いと言われています。

これを予防するために脳梗塞のリスクが一定以上ある方は、抗凝固薬、いわゆる「血をサラサラにする薬」を飲む必要があります。

脳梗塞のリスクが高い人は?

心房細動と診断されたからといって全ての方が心房細動になるわけではありません。

そこで脳梗塞のリスクをチャズ (CHADS2) スコアというものを使って評価します。

チャズスコアは、脳梗塞の危険因子のそれぞれの英語名の頭文字に由来します。

心不全(C)、高血圧(H)、年齢(A:75歳以上)、糖尿病(D)があると各1点、脳梗塞や一過性脳虚血発作(ごく短時間、手足の麻痺や言葉の障害が起こる発作)の既往(S)を2点として、合計6点満点で計算します。

頭文字危険因子点数
CCongestive heart failure心不全1
HHypertension高血圧1
AAge≧75 y年齢(75歳以上)1
DDiabetes mellitus糖尿病1
S₂Stroke/TIA脳卒中/一過性脳虚血発作の既往2

過去の研究からチャズスコアが高いほど脳梗塞の危険性が高いことがわかっています。

ワーファリンから新しい抗凝固薬へ

かつては抗凝固療法として使える薬はワーファリンしかありませんでした。

ワーファリンは、安価な反面、薬の効果に個人差があることから定期的に血液検査で効果を確認し、量の調節を行う必要があったり、効果が得られるまでに時間がかかったり、納豆を代表とするビタミンKを多く含む食べ物に制限が出るなどの問題がありました。

2011年に

  • ・飲み始めてからすぐに効果が出る
  • ・採血、用量調節不要
  • ・効果はワーファリンと同等程度
  • ・出血リスクは同等かもしくは低い

という特徴をもつ直接経口抗凝固薬 (direct oral anticoagulants: DOAC ドアック)が登場しました。

現在、心房細動の抗凝固療法は一部の患者さんを除いて、DOACが使われることがほとんどです。

4つのDOAC

DOACは現在4種類が使用可能です。

一般名ダビガドランリバロキサバンアピキサバンエドキサバン
商品名プラザキサイグザレルトエリキュースリクシアナ
規格75mg, 110mg10mg, 15mg2.5mg, 5mg15mg, 30mg, 60mg
通常用量150mg20mg5mg60mg
服用方法1日2回1日1回1日2回1日1回
出血リスクの
高い方への投与
××推奨推奨

腎機能によっても用量調節を行いますが、腎機能に問題がない場合は、服用回数、出血リスクなどを考慮して薬剤を選択します。

自覚症状の治療

自覚症状の治療は主に

  • ① 脈が速くなりすぎてドキドキしないようにする治療(心拍数調整療法)
  • ② そもそも心房細動が出ないように抑える治療(洞調律維持療法)

の2つになります。

以前は、心拍数調節療法と洞調律維持療法が、同列で推奨されていましたが、近年では心拍数調節療法のほうが洞調律維持療法よりも優先順位が高くなっています。

お薬でコントロールが難しい場合にはカテーテル治療やペースメーカーでの治療などを検討します。

心拍数調整療法

心拍数調節に使用される薬物には、

  • ・β遮断薬
  • ・ジギタリス製剤
  • ・非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬
  • ・抗不整脈薬のアミオダロン

があります。

β遮断薬

β遮断薬には、心拍調整効果だけでなく、心臓の筋肉を保護する効果や寿命を伸ばすなどの効果があることもあり、まず使用を検討する薬になります。

ビソプロロール(商品名:メインテート)とカルベジロール(商品名:アーチスト)が主に用いられます。

頻脈(脈が速くなる)のコントロールにあたっては、特に心拍数を抑える力が最も強いビソプロロールが選択されることが多いですが、効きすぎると脈が遅くなりすぎてフラフラしたり、めまいを起こしたりすることもあるため注意が必要です(年齢や体格、腎機能などを考慮して少量から増やしていきます)。

ジギタリス製剤

ジギタリス製剤は強心薬作用もあわせもつため、主に心機能が低下した頻脈性心房細動例で使用されます。

ジギタリス製剤は安静時の心拍数減少効果は認めるものの、運動時の減少効果は弱く、定期的に血中濃度を測定して至適濃度になるよう薬剤量を調節する必要があることなどもあり、以前に比べて使用頻度は下がっています。

非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬

非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のベラパミル(商品名:ワソラン)とジルチアゼム(商品名:ヘルベッサー)は、降圧効果に加えて脈をゆっくりにする効果もあるため、頻脈のある心房細動で使用されます。

ただし、心臓の収縮力を抑えたりする作用を併せもつため、心臓の機能が低下している方では使えません。

洞調律維持療法

お薬を使って、心房細動が出ないようにする治療です。心房細動が出なければ心房細動に伴う血栓や動悸症状などの問題は解決できますのでよさそうに思えます。

実際、そういった考えからお薬によって洞調律(正常の脈のことです)を維持する治療が積極的にされた時代もありましたが、結果的に薬の副作用でかえって調子を崩すことも少なくないことがわかり、またカテーテルによる治療の有効性が向上したこともあり優先順位が下がっています。

心臓自体に大きな問題がない場合では、ナトリウムチャネル遮断薬であるピルシカイニド(サンリズム)、シベンゾリン(シベノール)、プロパフェノン(プロノン)、フレカイニド(タンボコール)などを用います。

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