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糖尿病のお薬には何がある?―種類・特徴・使い分けについて


糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本です。
しかし、食事療法と運動療法で良好な血糖コントロールが実現できないときは、合併症の発症や進行を抑えるために、薬物療法(お薬での治療)を開始します。

では、どのタイミングで、どのお薬からはじめればよいのでしょうか?
外来で主治医の先生がお薬をはじめるときに、どんな基準で選択しているのでしょうか?

糖尿病のお薬にはさまざまな種類があり、それぞれ異なった特徴を持っています。今回は、どんな種類があるのか、それらの特徴、使い分けについてお話ししていきたいと思います。

1. 糖尿病のお薬には何がある?

1-1. 糖尿病薬の歴史

1990年頃までは3種類だった糖尿病のお薬ですが、現在は9種類まで増えました。種類が増えたことにより、それぞれの特徴や使い分けについて必要な知識は増え、治療は複雑になったという面もあります。

1-2. 糖尿病の薬の種類

投与経路機序種類
経口薬インスリン抵抗性改善系ビグアナイド薬
チアゾリジン薬
インスリン分泌促進系スルホニル尿素(SU)薬
速効型インスリン分泌促進薬
DPP-4阻害薬
糖吸収・排泄調節系α-グルコシダーゼ阻害薬
SGLT2阻害薬
注射薬インスリン分泌促進系GLP-1受容体作動薬
インスリンインスリン製剤

綿田裕孝ら.糖尿病学.西村書店.2015より作図

糖尿病の薬には飲み薬(経口血糖降下薬)と注射薬(インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬)があります。

病状や血糖値の状況にあわせて、どの薬剤からでも治療を開始する可能性があります。注射薬から経口薬へ変更することもあれば、経口薬から注射薬に変更する場合もあります。

経口血糖降下薬は現在7種類発売されており、それぞれ異なる特徴を持っているため、病状に合わせて選択し、ときにそれらを組み合わせて治療します。

ちなみに2020年2月現在注射薬のみ使用可能であるGLP-1受容体作動薬は、昨年内服薬が米国で承認され、日本でも現在承認申請中となっています(2020年中の発売が予想されています)。

1-3. 経口血糖降下薬の作用機序(お薬の効き方)

血糖降下薬は作用機序によって、

  • (1)インスリン抵抗性改善系
  • (2)インスリン分泌促進系
  • (3)糖吸収・排泄調節系

の3つにわかれます。

日本糖尿病学会が発行している糖尿病治療ガイド2018-2019(文光堂)を参考に説明していきたいと思います。

1-3-1. インスリン抵抗性改善系

インスリンは血糖を下げるホルモンですが、肥満、高血圧、高脂血症があるとインスリンへの反応が悪くなります(インスリン抵抗性)。インスリン抵抗性改善薬は、インスリンへの反応を改善し、血糖値を下げる薬です。

①ビグアナイド薬

肝臓で過剰なブドウ糖を放出する働きを抑え、筋肉などでのブドウ糖の利用をうながし、また消化管からの糖吸収を抑制することで血糖値を下げます。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)
メトホルミングリコラン3.66-14250500-750
メトグルコ2.96-14250, 500500-1500
ブホルミンジベトス、
ジベトンS
1.5-2.56-145050-150

服用時間:2-3回食後
主な副作用:下痢、便秘、食欲不振、乳酸アシドーシス

②チアゾリジン薬

インスリン抵抗性の改善によって血糖降下作用を発揮します。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)
ピオグリタゾンアクトス5.42415, 3015-30

服用時間:1日1回朝食前または朝食後
主な副作用:むくみ、体重増加(男性よりも女性で多い傾向)

1-3-2. インスリン分泌促進系

体内のインスリンの分泌を促すことで血糖コントロールを改善させる薬です。

①スルホニル尿素(SU)薬

膵臓に作用し、インスリン分泌を刺激します。
飲み薬の中で血糖降下作用が最も強力です。インスリン分泌の機能が低下していると最初から効かないことがあり(一次無効)、また長期に使用しているとインスリン分泌の機能が低下し、効果が薄れてしまうことがあります(二次無効)。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)
グリベンクラミドオイグルオン
ダオニール
2.72.71.25, 2.51.25-2.5
グリクラジドグリミクロン12.312-244020-120
グリメピリドアマリール1.512-240.5, 1, 30.5-4

服用時間:1日1-2回朝夕食前または食後
主な副作用:低血糖、体重増加

②速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)

SU薬と同様に膵臓に働きかけインスリン分泌を促しますが、飲んでからより短時間で血糖降下作用が得られ、食後の高血糖をピンポイントで改善します。作用時間も短いのが特徴です。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)
ナテグリニドスターシス
ファスティック
1.1-1.3330, 90180-270
ミチグリニドグルファスト1.235, 1015-30
レパグリニドシュアポスト0.840.25, 0.50.75-1.5

服用時間:1日3回各食前
主な副作用:低血糖

③DPP-4阻害薬

主に膵臓に作用するインクレチンというホルモンの分解を抑制し、その作用を助けます。インクレチンは血糖値が高いときにインスリン分泌を促す作用と、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑える作用があります。

DPP-4阻害薬は単独の投与では低血糖を起こしにくく、血糖を下げる効果もまずまずであることから日本では糖尿病治療薬として最も処方されています。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)

▼1日1-2回内服タイプ

シタグリプチングラクティブ
ジャヌビア
122412.5, 25, 50, 10050-100
ビルダグリプチンエクア2.412-2450100
アログリプチンネシーナ17246.25, 12.5, 2525
リナグリプチントラゼンタ1052455
テネリグリプチンテネリア24.2242020-40
アナグリプチンスイニー212-24100200-400
サキサグリプチンオングリザ7242.5, 52.5-5

▼週1回内服タイプ

トレラグリプチンザファテック54.316850, 100100/週
オマリグリプチンマリゼブ82.516812.5, 2525/週

服用時間:1日1-2回食後、週に1回
主な副作用:低血糖、便秘など

1-3-3.  糖吸収・排泄調節系

食べ物から体への糖の吸収をゆっくりにして血糖値の急な上昇を抑える、または、からだに取り込んだ糖を尿中に出させることで血糖値の上昇を抑えるお薬です。

①α-グルコシダーゼ阻害薬

α-グルコシド結合を加水分解する酵素であるα-グルコシダーゼの作用を阻害し、糖の吸収を遅らせることにより食後の高血糖を抑制します。
単独投与では低血糖を起こしにくく、食後高血糖の改善に効果が期待できます。また血糖コントロール改善に際して体重が増加しにくい特徴があります。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)
アカルボースグルコバイ2-350, 100150-300
ボグリボースベイスン2-30.2, 0.30.6-0.9
ミグリトールセイブル21-325, 50, 75150-225

服用時間:1日3回毎食前
主な副作用:腹部膨満感、放屁の増加、下痢など

②SGLT2阻害薬

近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで、尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮します。尿中に糖分を排出することで体重低下が期待されます。詳しくは過去の記事をご参照ください。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)
イプラグリフロジンスーグラ152425, 5050-100
ダパグリフロジンフォシーガ8-12245, 105-10
ルセオグリフロジンルセフィ11242.5, 52.5-5
トホグリフロジンアプルウェイ
デベルザ
5.4242020
カナグリフロジンカナグル10.224100100
エンパグリフロジンジャディアンス11242.5, 52.5-5

服用時間:1日1回
主な副作用:脱水、尿路感染症、性器感染症(女性に多い)など

1-3-4. 配合薬

糖尿病の治療にあたっては複数のお薬を組み合わせて使う必要があり、2剤を1剤にまとめた薬「1粒で2粒分の働きをする薬」である配合薬が登場しました。

<薬の種類>

一般名商品名
(主なもの)
血中半減期
(時間)
作用時間
(時間)
1錠中の含有量
(mg)
1日の使用量
(mg)
ピオグリタゾン/
メトホルミン
メタクトLD
メタクトHD
Pio 10.4
Met 4.4
Pio 15, Met 500
Pio 30, Met 500
15/500
ピオグリタゾン/
グリメピリド
ソニアスLD
ソニアスHD
Pio 8.9
Gli 7.5
Pio 15, Gli 1
Pio 30, Gli 3
15/1
30/3
アログリプチン/
ピオグリタゾン
リオベルLD
リオベルHD
Alo 18.3
Pio 9.2
Alo 25, Pio 15
Alo 25, Pio 30
25/15
25/30
ミチグリニド/
ボグリボース
グルベスMit 1.3
Vog –
Mit 10, Vog 0.230/0.6
ビルダグリプチン/
メトホルミン
エクメットLD
エクメットHD
Vil 1.8, Met 3.6/4.0Vil 50, Met 250
Vil 50, Met 500
100/1000
エアログリプチンイニシンクAlo 18.5Alo 2525/500

ピオグリタゾン: Pio、メトホルミン: Met、グリメピリド:Gli、
アログリプチン:Alo、ミチグリニド:Mit、ボグリボース:Vog、
ビルダグリプチン:Vil、テネグリプチン:Ten、カナグリフロジン: Can
LD: Low dose=低容量、HD: High dose=高容量

2. 糖尿病の薬の使い分けのポイント

糖尿病のお薬は、ここまで説明したように飲み薬で7系統27種類あり、その組み合わせは多種多様です。

では、医師はどのようにしてこれらを使い分けているのでしょうか?

薬剤選択の明確な指針は出ていませんが、アメリカ糖尿病学会は
Standards of Medical Care in Diabetes-2018 Abridged for Primary Care Providers
の中で以下の要素を挙げています。

  • ・血糖降下作用
  • ・低血糖リスク
  • ・体重への影響
  • ・心臓や血管への影響
  • ・費用(コストパフォーマンス)
  • ・腎への影響、腎機能

これに加えて、年齢、合併症、認知機能、体格、インスリン分泌機能、病気の状態(血糖値、HbA1c)、病気への理解度、社会的サポート
など様々な要素を踏まえて選択します。

以上を踏まえて、私の私見でまとめていきたいと思います。

2-1. 年齢や余命

糖尿病の治療の目標は
高すぎる血糖値に対する初期治療もありますが、最大の目標は
「血糖値が高いことによって起きる合併症を予防する」にあります。

通常合併症が進行し、症状が出てくるのには
数年から数十年(10年以上かかることが多い)の時間がかかります。

そのため、若い方とご高齢の方では、治療の目標が異なります(実際には年齢に認知機能も併せて目標値が設定されています)。

つまり、高齢の方には、合併症の予防をしながらも低血糖のリスクをできるだけ減らすように「ゆるめの」治療設定を行います。

一般的には末期癌などであまり余命が長くない方へも厳格な血糖管理は行いません。

2-2. 体格

メタボ体系かそうでないかで治療方針は変わってきます。
体型だけで決めつけることはできませんが、メタボ体型である場合にはインスリン抵抗性が関与している要素が強いことが多いため、使えない理由がなければ、まずはインスリン抵抗性改善薬を選択します。

コスパと効果のバランスからメトホルミンを少量から始めることが多いです。

実際インスリン抵抗性による糖尿病患者さんが多いアメリカの糖尿病学会では、「とりあえずメトホルミン」と第一選択薬として推奨されています。

日本糖尿病学会のガイドラインで同様にメトホルミンを第一選択として明確に推奨していないのは、日本での糖尿病はインスリン抵抗性が主体でない(=肥満が原因でない)糖尿病患者さんが多いからです。

余談ですが、肥満で悩む患者さんの中には、体重減少効果が期待される、SGLT2阻害薬やGLP-1作動薬を希望される患者さんもいらっしゃいます。

体重減少効果はあくまで副次的なものではありますが、薬剤選択の際の要素にはなります。

2-3. どのタイミングの血糖値が高いか

血糖値は1日の中で変動しており、健康な人でも食後は血糖値が上昇します。
通常は血糖値が上昇すると、膵臓から適切な量のインスリンが分泌され、その働きによって、食後薬2時間後には通常の値に戻ります。

しかし、糖尿病の方は、インスリンの分泌量が少なかったり、働きが十分でなかったりすることから食後の血糖値が十分に低下せず、高血糖の状態が続きます。

これを食後高血糖といいます。食後高血糖が主体の糖尿病患者さんは、空腹時や食事から時間をおいたタイミングでの血糖値はあまり高くないのにも関わらず、血糖コントロールの指標であるHbA1cは高値となっています。

この場合には、食後血糖を下げる作用のあるαグルコシダーゼ阻害薬や速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系薬)などを選択します。

2-4. 合併症の有無

合併症によって使う薬の選択は違ってきます。
肝機能が悪い場合には、主に肝臓で分解される薬は使えませんし、腎機能が悪い場合には、主に腎臓で分解される薬は量を減らしたり、使用できなかったりすることがあります。

心不全や腎機能障害のある患者さんにはSGLT2阻害薬の有効性を支持するデータが複数出ていますので使用を考慮します。

お腹の手術をしていたり、腸閉塞の既往があったりする方には腸管に働きかけて作用するαガラクトシダーゼ阻害薬は、原則使用できません。

2-5. 生活スタイル

糖尿病の治療目標の一つに「糖尿病を抱える方が糖尿病のない方と同じような日常生活を送る」ことがあります。

  • ・仕事のスケジュールによって食事時間がまちまち
  • ・認知症のある糖尿病患者さんで薬の管理をしているのは多忙なご家族
  • ・仕事柄どうしても外食が多くなってしまう

病気の特徴や合併症の状態だけでなく、その方の生活スタイルにあわせた、続けやすく、できるだけ負担の少ない治療を一緒に考えていくのが重要ではないかと考えます。

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