高血圧の方にお薬を出すときに「血圧の薬って飲み始めたら一生飲み続けないといけないって聞いたことがあるのですが本当ですか?」と聞かれることがしばしばあります。
病気は薬を飲んで治る、そうすれば薬はもういらないはずです。実際薬を飲み始めたら血圧が下がったのでしばらくしたら通院をやめた、と外来で教えてくれる患者さんもいます。なぜこんな話が聞けるかというと、通院をやめて少ししたら、また血圧が上がってきてしまった。健診でまた引っかかってしまい、家族も心配しているが、前の先生のところへは少し行きづらくなってしまったから診てほしい、というやりとりもまたしばしば経験しているからです。
これらは文字通り治っており、医学の言葉ではこれを根本的に治るという意味で「根治(こんち)」といいます。
逆に根治が難しい病気も数多くあり、俗に生活習慣病と呼ばれる「脂質異常症(高脂血症)」「糖尿病」そして「高血圧」もこれに該当します。血圧コントロールの改善を目指して腎臓の交感神経をカテーテルで焼灼する腎デナベーションという治療も研究されていますが現時点では一般的な治療として確立されるには至っていません。
高血圧は、本態性高血圧(原因が特定できないもの)と二次性高血圧(ある特定の原因による高血圧)に分けることができるのですが、原因の特定できない本態性高血圧が9割程度だと言われています。
本態性高血圧は遺伝的/体質的な要素や生活習慣などが複雑に関与しており、何か一つを改善させれば根治するといった類の病気ではありません。特に体質的な要素に関しては自分ではどうすることもできない部分です。ただし、どうにかできる部分もあり、以下のものがあります。
ですので、高血圧で受診された方は重症な方や他の病気の合併がある方を除いて、お薬での治療を始める前に食事療法と運動療法をおすすめすることになります。
具体的には「外食中心の生活を見直し(基本的に外食は塩分過多です)、飲酒も缶ビール1本程度に留め、タバコはやめて、週に3回程度ウォーキングなどをやってみましょう。ダイエットも少しずつしていきましょう。」
といった感じになるわけです。もちろんこういった生活習慣の見直しが不要な方もいらっしゃいますが、多くの方は見直すべき点が少なからずあるわけです。中にはこういった生活習慣を大幅に見直すことで薬が必要なくなったり、薬を始めた後でも薬を減らしたり、必要なくなって中止になる方もおられます。
しかし、やろうやろうと思うダイエットや筋力トレーニングがなかなか続かないように今までの生活習慣を大幅に見直すことを実行し、継続することは難しい方も多く、お薬での治療、ということになるわけです。
薬の代謝は個人差もありますので一概には言えませんが厚生労働省が公開しているNDBオープンデータ処方量(2016年度レセプト情報)<処方量の上記100品目までを掲載>をもとに降圧剤としてよく処方される薬剤概ね上位10種(*同型薬剤は1種類として検討)の添付文書を見てみますと血液内の濃度がピークの半分になる時間(難しい言葉で半減期といいます)が最も短いもので2、3時間程度、多くは8-13時間程度で長いものでもおよそ40時間程度でした。
必ずしも半減期になったから効果がゼロになってしまうとは言い切れませんが半減期の倍時間で概ね体からは排泄されるとされていますので、長く見積もっても3日半もしたら降圧薬はほとんど体から消えてしまっているということになります。せっかく飲むならきちんと毎日飲む必要があるのはそのためです。
血圧の治療を開始してしばらくのうちは降圧目標をしっかり達成するために少しずつ薬の量が増えていってしまうことはしばしばありますが、きちんと血圧が安定し、なおかつ内服開始をきっかけに生活習慣を大きく見直した方では、数年後に薬の量が減ってくることは時々あります。
血圧がよく下がって安定しているので、こちらから提案して試しに、と薬を止めてもよいコントロールが維持できてそのまま薬を中止できる方もいます。
ただしあくまで少数派で、1週間前に薬が切れてしまった、と来院された方の血圧を測るといつもよりずいぶんと上がってしまっていることの方がずっと多く経験します。
こういった質問?ご意見?も時々耳にしますが、そもそも血圧の薬は何のために飲むのでしょうか。
頭痛があるから、ほてって調子が悪いから、こういった自覚症状をきっかけに受診される方もいらっしゃいますが症状を伴わない方が大半です。それでもどうして血圧を下げた方がいいかといえば、何か(脳、心臓、腎臓、血管の病気など)を起こす確率を少しでも下げて健康で素敵な生活を送るためだ思います。
医学では全てが完璧という選択ができないことも多く、メリットとデメリットのバランスを天秤にかけて判断をしないといけないことが頻繁に起こります。
確かに長い期間お薬を飲む必要が出る負担があることは事実です。しかし、そのことによって防ぐことができるかもしれない辛い病気があるかもしれないことを思うと、転ばぬ先に杖を持っていただきたいと考えてしまいます。
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