心不全は、心臓のポンプとしての機能が低下してしまったために、息苦しさ、だるさ、むくみなどがでてしまう状態のことをいいます。
お薬などでの治療により安定した状態にすることはできるものの、弱ってしまった心臓を完全に治すことは難しく、長期にわたって付き合っていく必要があります。
今回は、「心不全との上手な付き合い方」について考えていきたいと思います。
心不全は病名というよりは状態
心不全は、「心臓(心)の機能や活動が完全でない(不全)」という言葉からもわかるように病名ではなく「心臓の働きが不十分な結果起きた体の状態」 をいいます。
つまり、心臓の機能を弱らせる病気:心筋梗塞や心臓弁膜症、特発性心筋症、高血圧性心臓病などによって心臓が本来の働きを十分にできなくなって症状を起こした状態が心不全、ということになります。
とはいえ、心臓も少し弱ったくらいでは、すぐに苦しくなったり、むくみが出たりといった症状は起きません。
からだには、弱った機能を他の部分でカバーする代償機構が備わっており、しばらくの間は症状が出ずに経過します。しかし、ある時からだがカバーしきれなくなると、自覚症状を認めるようになるのです。
心不全は増加傾向
近年、生活習慣の欧米化に伴う虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)の増加や高齢化による高血圧や弁膜症の増加などにより、心不全の患者さんが急増しています。
心不全は高齢になればなるほど患者数が増えることが知られています。米国の研究によると、50歳代での慢性心不全の発症率は1%であるのに対し、80歳以上では、10%になることが報告されています。1980年以降、高齢化の一途をたどる日本でも、今後さらに心不全になる方が増加していくと予想されています。
心不全は徐々に悪化するからわかりにくい
心不全は急な悪化と回復を繰り返しながら、徐々に進行します。いったん症状は改善しても、病気が治ったわけではなく、経過の予測は困難です。そのため、心不全では、「悪化しないように注意しながらうまく付き合っていく」という考え方が重要です。
心不全にならないためには?
では、心不全を防ぐにはどうしたらよいのでしょう。まず、その原因を知ることが大切です。
心不全の主な原因としては、以下のものがあります。
この中で、もっとも多いのは高血圧に関連した心不全です。心不全のガイドラインでは、高血圧をはじめ、糖尿病や肥満、脂質異常症、喫煙習慣がある段階は初期段階、心肥大や心筋梗塞、心房細動など心臓病がみられる段階は、心不全予備軍としてさらに高リスクに位置づけられています。
初期段階では、生活習慣病の予防・治療が重要ですし、心臓病がある場合には原因となる心疾患を治療することが、心不全の予防につながります。
心不全を悪化させないためには?
心不全が悪くなる要因として、
などがあります。
なかでも、最も気をつけたいのが、塩分のとりすぎです。塩分が多いと血液中のナトリウム濃度が上がり、これを薄めるために体のなかの水分量が増えるため、心臓に負担がかかります。
心不全でない方でも暴飲暴食や不規則や生活によってむくみが出た、という経験がある方は少なくないでしょう。
減塩は、高血圧だけでなく、心不全の患者さんにも有効です。塩分の多い加工食品(干物や漬物、練り物など)は控える、汁物は1日1杯にする、調味料に気をつける、麺類の汁は飲まないなど、減塩に努めましょう。
そして、もう一つ重要なものとして、運動があります。
「心臓が弱っているのだから運動で負担をかけないほうがいいのでは」と感じるかもしれません。実際、以前は心不全の方は、安静を保つべき、という考えが一般的でした。
しかし、現在では、心不全の患者さんにも運動が推奨されています。
苦しくなってしまうほどの激しい運動は推奨されていませんが、辛くならない範囲で、ウォーキング、サイクリング、ラジオ体操、社交ダンス、水中ウォーキングなどの運動を、できるだけ毎日、1回20-30分行うとよいでしょう。
ふだんから運動をすることで心肺機能が高まり、心不全が悪化しにくくなることがわかっています。
ただし、運動がすすめられるのは症状が安定している慢性心不全の患者さんであり、不安定狭心症や大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、重症な不整脈など、運動がすすめられない患者さんもいらっしゃいますので、運動する前に主治医の先生に相談するとよいでしょう。
セルフケアのポイントは?
心不全は状態が悪化するまで自覚症状がでないことも多く、症状がでた時には病状が進行している場合も少なくありません。
日々の状態管理で重要なことをみていきましょう。
・体重測定
毎日決まった時間に体重測定を行い、手帳などに記録するとよいでしょう。体重が2-3kg急激に増加した場合には、心不全悪化のサインである可能性があります。通院するときは、体重測定の記録を持参するとよいでしょう。
・排尿回数と尿量
昼間の排尿回数・尿量の減少や夜間の排尿回数の増加に注意します。とった水分量に見合った尿量が得られていない場合、徐々に体内に水分がたまり、心不全が悪化している可能性があります。
・むくみ
顔や足のすねなどのむくみに注意します。心不全以外でもむくみが出ることはありますが、むくみがきっかけで心不全が見つかることはよくあります。
ひどいむくみの場合、靴やズボンが履きにくくなった、といって受診され、調べてみたら心不全だったという方もいらっしゃいます。
・だるさ、息切れ
だるさや息切れがいつもよりひどくなり、ちょっとした動作でも自覚するようになってきたら心不全悪化のサインかもしれません。
特に横になると苦しさが悪化する、睡眠中に苦しくて起きてしまう、という場合には、すぐに医療機関を受診した方がよいでしょう。
・食欲がない
食欲の低下はいろいろな原因で起こりますが、心不全によって消化管がむくんだ結果、食べ物の吸収が悪くなり、食欲が低下する、ということもあります。
最後に
心不全は、完全に治すことは難しい病気ですが、セルフケアに注意することで悪化を予防できる病気でもあります。上手に付き合って、快適な生活を送りましょう。
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