「グコー!グコー!」。家族や友人のいびきがうるさくてなかなか寝付けない、といった経験がある方は多いと思います。
「いびきをかくのは熟睡している証拠」と言う方がいますが、周囲から「うるさい」といわれるほどのいびきは睡眠に悪影響を与え、病気の原因にもなるので注意が必要です。
そもそも「いびき」とはどういったもので、なぜかくのでしょうか。
鼻腔(びくう)から喉、気管支に至るまでの、空気の通り道を「気道」と言います。 いびきは、口蓋垂(こうがいすい=いわゆる「のどちんこ」)やその上の軟口蓋が振動する音です。気道が狭くなっていなければ、いびきはかきません。
就寝すると気道を構成している筋肉が緩んで気道が狭くなり、さらにあおむけになると、重力によって喉の軟口蓋(なんこうがい)や、舌根(ぜっこん)が落ち込み、空気の通り道をふさいでしまいます。
空気が流れにくくなり、苦しくなると、体はそれを補うため、大きく息を吸い込み、その際に口蓋垂などが振動し音がなる、これが「いびき」です。
通常、鼻呼吸の方が、舌などによる気流の抵抗が少ないためスムーズです。鼻の粘膜には空気の流れを感知するセンサーがあり、呼吸のリズムを保つのにも役立っています。しかし、息苦しいときは、より多くの酸素を吸い込むため、口呼吸となり、鼻のセンサーが作動しなるため、さらに呼吸が乱れやすくなるのです。
お酒を飲むと、いびきが激しくなったり普段かかない人がいびきをかいたりすることがあります。上気道を開く神経活動が低下して筋肉がゆるみ、呼吸の通り道が狭くなるからです。過度に飲酒すると鼻粘膜が充血し腫れ上がって鼻では呼吸しにくくなり、口呼吸をしてしまうこともいびきの原因になります。
毎日大きないびきをかくだけなら「単純いびき症」といい、それだけであれば健康に大きな影響はありません。しかし、中には睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrime:SAS, サス)であることもあり注意が必要です。
SASとは、10秒以上続く無呼吸が一晩(7時間以上の睡眠中)に30回以上、もしくは睡眠1時間に平均5回以上起こるものです。
SASになると酸素不足によって脳が覚醒状態になるため、交感神経が活発になり、血管が収縮します。そのため、血管や心臓に負担がかかり高血圧や脳卒中を招きやすくなります。また、睡眠不足によるストレスで、糖の代謝に関わるインスリンの働きが悪くなることで糖尿病になりやすくなるとの報告もあります。
30-60歳を対象とした米国の研究によると、SAS患者さんの割合は、軽症も含めると男性24%、女性9%で、そのうち症状がある睡眠時無呼症候群の割合は男性4%、女性2%であったと報告されています。
日本での患者数は約200万~300万人といわれていますが、実際はもっと多いのではないかと考えられています。
しかし、自覚症状があるのは半数程度とされており、SASはあっても自分で気づいていないことも多いのが実情です。
「いびきがうるさい」「寝ている時に息が止まっている」と家族や友人に指摘され受診される方が多いですが、熟睡できないせいで、日中に強い眠気が起こることやだるさの原因が無呼吸にあったということもあります。
検査をしないとはっきりしないこともありますので、少しでも疑ったら、まずは検査をしてみるのがよいでしょう。
検査には大きく分けて簡易検査と精密検査があります。
精密検査は脳波を用いて睡眠の状況を評価しながら無呼吸の評価をするもので、費用負担も大きいことからまずは簡易検査から行うことが一般的です。
簡易検査では手と顔にセンサーをつけて、眠っている間の呼吸と血液中の酸素(濃度)の状況を調べます。少しわずらわしいと感じるかもしれませんが、痛みを伴う検査ではありません。
検査結果によっては、寝る時にマスクを鼻や口に装着して小型の装置から気道を開くように空気を送り、その圧で気道を広げ、気道の閉塞(へいそく)や狭窄(きょうさく)を防げるCPAP(シーパップ)という機械を用いた治療やマウスピースを用いた治療などを行います。
治療を始めることで睡眠の質が向上し、「日中の眠気が改善した」、「体が軽くなった」と言われる方も少なくありません。体のケアとして、一度検査を受けてチェックしてみるのもよいでしょう。
© 2019 Inui pediatrics and internal medicine clinic