備えあれば憂いなし、天災は忘れた頃にやってくる。
自然災害はいつどこで起きるかわかりません。
持病がある方ならどなたでも、避難するときには定期薬を持っていく必要がありますが、糖尿病患者さん、中でもインスリン注射をしている方は注射が不足してしまったり、生活様式が変化したりすることで大きく体調を崩してしまう恐れがあります。
今回は、災害時に備えてどんな準備をしておく必要があるか、避難所生活を送る際にはどんなことに注意が必要か、についてまとめていきたいと思います。
非常用持ち出しセットを準備しておこう
災害時は、あわててしまい、冷静な判断をするのが難しくなります。
そのため、普段から非常用の持ち出しセットを準備しておくとよいでしょう。
過去の災害では、糖尿病治療薬特にSU薬などの経口血糖降下薬、およびインスリン治療中の患者さんは、薬が不足し、高血糖になってしまうから食事を食べられないという非常事態に直面した、という報告があります。
その教訓をふまえて、「非常用持ち出し品」として準備しておきたいものをまとめました。
インスリンの未使用品は「冷蔵庫で保存」とされているのですが避難リュックごと冷蔵庫に入れておくわけにはいきません。
ノボラピッド注フレックスペン、ヒューマログ注ミリオペン等は共に未開封30℃で約1カ月安定であることが確認されているため、避難リュックに1本入れておき、毎月きちんと替えて使用することは可能です。
しかし、毎月きちんと交換して使用することは難しいことが多いと思いますので、避難用リュックに「インスリン・針・血糖測定器・薬」と書いたものを張っておき、使用中のインスリンセット、血糖測定器と冷蔵庫の予備を持って避難するのが現実的です。
上記に加えて、一般的な非常用品として
なども準備しておくとよいでしょう。
避難所での食事
災害後は、流通やライフラインの途絶により、いつも通りの食事をとることが難しくなります。
食事支援として届くものは、インスタント食品、おにぎり、菓子パンなど糖質が多いものに偏りがちで、タンパク質、野菜を食べる機会が少なくなります。
食事の中にタンパク質を含む食品(肉類や卵類、乳製品類など)や野菜類がある場合は、それらを先にゆっくりと噛んで食べ、炭水化物を後に食べることで血糖の急激な上昇を抑えることができます。
食事内容に加えて、配給は1日2食(10時と16時頃など)の支給となる場合が多いため、食後の高血糖や食事配給間の時間が長いことから低血糖が起こりやすいといわれています。
また、糖尿病のお薬やインスリンが足りないにも関わらず「せっかく配給されたものを残せない」、食事供給に対する不安の心理からから、「エネルギー過剰と分かっていても、全量を食べてしまう」場合もあり、血糖コントロールが悪化しやすい状況となります。
避難所で食事を理想に近づけることは全く不可能ですが、到着した医療スタッフのアドバイスを受けながら、少しでも血糖が改善するように自分で考え工夫することが大切です。
避難所の生活環境
避難所では水の配給が十分でないことがあります。
トイレの心配から水分をとることを控えがちになる方が多いですが、これは危険です。
水分が不足すると便秘や脱水症状を招き、特に高齢の方では高血糖高浸透圧症候群という危険な状態を起こすリスクが上がります。
運動について
避難所生活が長引くと、体を動かすことが大変になってきます。
しかし、あまり動かずに体を動かさないでいると、静脈に血栓ができて肺の血管が詰まる「エコノミークラス症候群」を起こしやすくなります。
散歩や屈伸運動、ストレッチ、軽いランニングなどをして、体を動かす習慣を維持しましょう。
ただし、食事の全体量が不足のときは食後以外の血糖値は低くなりがちです。こまめに血糖値をチェックして、インスリンなどの量を調節したり、激しい労働、運動は避けたりして調節するようにしましょう。
お薬について
食事内容や生活強度が変わるため、お薬に関しても注意が必要です。
食事間隔があく場合、薬が効きすぎると低血糖を起こすことがあります。高齢の方などでSU薬と呼ばれるアマリール(グリメピリド)、オイグルコン、ダオニールなどを内服している方は、あらかじめ通常の半分以下に減量しておく方が安全です。
また、メトグルコは脱水時に重篤な副作用が起きることがあるため、注意が必要です。
SGLT-2阻害薬(スーグラ、ジャディアンス、フォシーガ、カナグルなど)も脱水を誘発する危険があるため、食事が安定しない環境では他の薬剤への変更が望ましいでしょう。
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