暖冬、といいつつも寒い日が続いています。寒いとお風呂でゆっくり温まりたくなるのは私だけではないはずです。
一方で、毎年12月から2月は入浴中に体調を崩し、急死する人が急増する時期でもあります。
2015年の厚労省研究班の調査では、病気なども含めた入浴中の推定死亡者数は、年間約1万9千人。
交通事故による年間の死者数は2019年3215名●ですので、入浴中の推定死亡者数は、交通事故死の約6倍になります。
どんな特徴があるのか、どんなことに注意が必要なのか、確認していきたいと思います。
各国の溺死率を比較したデータをみると、溺死の中には川や海などで溺れてしまった数も含まれるものの、日本は世界の中でも多く、特に、65歳以上を示す赤のグラフが突出して高いことがわかります。
日本は入浴の際に、シャワーだけでなく、浴槽につかる習慣があることに加え、入浴によるヒートショックが大きな要因と指摘されています。
冬場の寒い時期に、寒い脱衣所から熱い湯船へ急に移動すると、その刺激で血圧などが大きく変化します。それが失神や脳卒中、心臓病につながり、お湯におぼれたり、脱衣所で動けなくなったりして命に関わる場合もあります。
高齢になると、温度の変化にあわせて血液の流れを調整するなどの働きが衰えます。そして日本では熱い風呂に長くつかるのが好きな人が多く、それが事故につながっていると指摘されています。
東京都監察医務院が行なった東京都23区の異状死の検案(年間約14,000件)のうち、死亡直前の行動が入浴中であったのは、2018年は1,402件で、全検案数の約1割を占めています。
また季節別でみると、死亡者数は夏季に少なく、冬季(12月―2月)で特に多いことがわかります。
同じデータを年齢別にわけてみてみると、60歳を境に入浴中の死亡者数は急増し、60代、70代では男性、80代では女性に多いことがわかります。
12月から2月の冬場に起こりやすい浴槽での事故としてヒートショックがあります。
ヒートショックは急激な温度の変化によって血圧が大きく変動するなど、身体に大きな負荷がかかることで起こり、失神、不整脈などの症状が見られます。重症の場合は死に至ることもあります。
持病がない健康な方にもヒートショックは起こります。
気温が低くなる冬場の脱衣場や浴室は室温が低くやすいので注意が必要です。
寒い室内で衣服を脱ぎ、体が冷えると血管が縮んで血圧は上昇します(体の中心部に優先して血液がまわるように調整するためです)。
寒い浴室でさらに体が冷え、より血圧も上昇します。
この状態で急に浴槽にはった熱いお湯につかると、急激に体が温まることで血管が広がり、血圧は低下。ヒートショックが起こりやすい条件となります。
厚生労働省によると
「入浴中急死は、体温上昇および低血圧による意識障害のために出浴が困難となり、さらに体温が上昇して致死的になる病態(熱中症)と考えられた」
とあり、対策として、
があげられています。
入浴時の事故死を防ぐためにヒートショックの対策と予防についてもう少し詳しくみていきましょう。
入浴前にあらかじめ浴室や脱衣所を暖めておくことで急激な温度変化をさけ、体への負担を減らすことができます。
暖房器具を使わない場合でも、お湯を浴槽に入れる時にシャワーから給湯したり、浴槽のフタを開けておいたりすることで、蒸気で浴室の温度を上げることができます。
熱いお湯に長時間つかることで体温が上昇しやすくなります。のぼせて意識がもうろうとして浴槽から出られず、さらに体温が上昇して熱中症になることもあるため、湯温は41度以下を目安に、お湯につかる時間は10分以内を目安としましょう。
お湯につかっている間は体に水圧がかかっています。急に浴槽から立ち上がると、体にかかっていた水圧がなくなり、血管が急に広がることで血圧が低下し、ふらついたり、気を失ってしまったりする危険があります。
浴槽から出るときは、手すりや浴槽のへりなどをもってゆっくりと立ち上がるようにしましょう。
飲酒をすると血圧が下がります。入浴中も血管が広がり血圧が下がります。飲酒後の入浴は、血圧が二重に下がりやすく危険な状態です。思わぬ事故につながることもありますので、飲酒後の入浴は、控えるようにしましょう。
入浴中に体調の異変があった場合は、すぐに対応することが重要です。しかし、意識を失った場合はもちろん、気分が悪くなったりして自力では浴槽の外に出られない場合もあります。
ご家族などと同居している場合は、入浴前に一声掛けてからお風呂に入ったり、家族が寝ている深夜や早朝の入浴は控えたりするなどの対策がすすめられています。
寒い時期にお風呂に入ってあたたまるのは、とても気持ちがいいものですが、時に危険を伴います。
正しい準備をして安全な入浴をこころがけましょう。
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