「糖質制限」という言葉はいろいろなところで見かけるようになりました。糖尿病患者さんは何らかの形で糖質過多の食生活であることが多く、それを見直すことで血糖コントロールの改善が期待できます。
詳しくは以前の記事をご参照下さい。
2020.09.25
さて、同じ糖質量であれば、食後に血糖値が上がる速度は同じでしょうか。答えは「NO」です。今回は、食後に血糖値があがりやすい食べ物とそうでない食べ物についてお話したいと思います。
体内で血糖値が上がるしくみ
ごはんやパンに代表される炭水化物が多い食べ物が口から入ると、食道を通り、胃や十二指腸で消化され小腸から吸収されます。吸収された糖分はブドウ糖等として血管内に取り込まれ、下記のような流れで体内に取り込まれます。
インスリンの分泌が少ない、分泌のタイミングが遅い、インスリンの作用が低下しているなどの理由から、うまく血糖の処理ができなくなると、スムーズに血糖値が下がらなくなります。
食後数時間たっても、血糖値が下がらない状態が慢性的に続くのが、糖尿病というわけです。血糖値が食後急激に上がらないような食事や質が、糖尿病を防ぐためには大事なことと言われています。
糖尿病があると食後に血糖値が上がりやすい
血糖値が高いことが体によくないことはなんとなくわかりますが、実はそれだけでなく上がり方にもポイントがあります。
健康な方では食事を分解して栄養として取り込むためにインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンによって血液内のブドウ糖は細胞内に取り込まれ、血糖値は低下します。
しかし、糖尿病や糖尿病予備軍(かくれ糖尿病)の方ではこの反応が弱く、食事をとった後に高値となり、また血糖値の下がりも遅くなります。
食後の血糖値の上昇は血管にストレスを与える
食後血糖の上昇は、炎症を起こすことで血管に障害を起こし、心筋梗塞や脳梗塞といった病気の引き金になります。
糖尿病の血糖コントロールの指標として広く用いられているHbA1cは過去1-2ヶ月の血糖値の平均を見ているため、実は食後高血糖を起こしていても全体としてはそこまで高血糖でないと気づきにくい、といったことも起こりえます。
血糖値が上がりにくい食べ物は?
「血糖値が上がりやすいのは、カロリーが高い食べ物だ」そう考えている人が多いようですが、そうとは限りません。
一般的に、血糖値が上がりやすいのは、すぐエネルギーになりやすいごはんやパン、果物、砂糖などの炭水化物の多い食事と言われています。
ついでタンパク質の多い、肉類や魚介類、卵、乳製品など、そして油の多い食品が続きます。
しかし、血糖に影響するからといって、炭水化物を食べないと、栄養バランスが悪くなるうえ、食事の満足感が得られないため、かえってタンパク質や脂肪などを過剰に摂りすぎてしまうことにつながりかねません。
食後に血糖値が上がりやすい炭水化物ですが、同じ量の炭水化物を含む食品でも、食物繊維の量により血糖値が急激に上昇するものとおだやかに上昇するものがあります。
GIが高いと食後血糖が上がりやすい
食べものが食後血糖上昇に与える影響の違いを比較する指標として、グリセミックインデックス(Glycemic index: GI)があります。
「GIとは食後血糖値の上がりやすさを示す数値」と捉えるとわかりやすいです。
GIが高い食べものを食べると、一気に血糖値が上がるため、血液中の糖を処理するために多量のインスリンが分泌されたり、分泌が追いつかなくなったりしてしまいます。
逆にGIが低い食べものでは、糖がおだやかに取り込まれ、血糖値の上昇もゆるやかになるため、インスリンも分泌しすぎることなく、糖はすみやかに組織に吸収されます。
主な食品のGI値
低GI (55以下) | 中GI (56-69) | 高GI (70以上) | |
---|---|---|---|
穀類 | そば スパゲッティ 押し麦 春雨 |
玄米 | 白米 パン もち せんべい 粥 コーンフレーク |
果物 | りんご イチゴ メロン グレープフルーツ みかん |
パイナップル 柿 ぶどう |
すいか |
野菜 | 葉物野菜 ブロッコリー ピーマン きのこ類 |
さつまいも | じゃがいも さといも 長いも 人参 |
乳製品 | 牛乳 チーズ ヨーグルト バター |
アイスクリーム | 練乳 |
Atkinson FS et al. International Tables of Glycemic Index and Glycemic Load Values: 2008.
Diabetes Care
31: 2281-2283などをもとに作成
同じ食品を原料にしたものでも、品種、含有栄養素や加工方法の違いなどにより、GIが異なることがポイントです。
表にある通り、高GI食品はグルコースのほかに消化によってグルコースとなる単純糖質のデンプン、グリコーゲン、デキストリン、麦芽糖の含有量が多いものになります。
つまり、炭水化物を多く含む食品のなかでも、ジャガイモ、パン、米飯、コーンフレークなどのデンプン質性食品は比較的高いGIを示しています。
一方、果物にはフルクトース(果糖)、乳製品にはガラクトース(乳糖)といった食直後の血糖に反映されない糖質を含むためGIは低めの傾向にあります。
さらに、食事中の脂質はグルコースの吸収を遅延させ、食物繊維はグルコースの吸収を抑制することからGIを低下させます。
またインスリン分泌刺激は、蛋白質やアミノ酸を糖質と同時に摂取した場合に高まるため、蛋白質やアミノ酸含有量の多い食品のGI値は低くなります。
つまり、GI値は食品中に含まれる糖質以外の栄養素含有量により決まってくるのです。
野菜やきのこなどの低GI食品から食べる
定食なら、いきなりごはんやパンから食べはじめるのではなく、サラダやあえ物、おひたし、スープなどから先に食べはじめましょう。
野菜やきのこ、豆類、海藻などの低GI値食品から食べはじめ、それから肉や魚料理、最後にごはんなど高GI食品の炭水化物は最後に食べます。
食物繊維のおかずを先に食べることによって血糖の急上昇を防ぐだけでなく、満腹感も得られ、自然と食事量(摂取カロリー)が減るので減量にもつながります。
コース料理(サラダ→スープ→肉・魚料理→パンorライス)をイメージして食べるようにするとわかりやすいかもしれません。
おかずとごはんを一緒に食べたい時は、少しだけおかずを残しておいて最後にごはんと一緒に食べるとよいでしょう。
野菜(ベジタブル)を最初に、ということで「ベジファースト」という言葉も見かけるようになりました。
毎食必ず、野菜のおかずから先に食べることは、なかなか難しいかもしれませんが、食物繊維の効果を知った上で、まずは意識することから始めてみましょう。
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