【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用|高崎市 乾小児科内科医院|アレルギー科・循環器内科(心臓血管内科)

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【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用

2020.03.26

【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用

 
 

スタチン系薬は脂質異常症(高脂血症)の治療薬で、最も広く使われているお薬です。

脂質異常症の概説に関しては過去の記事「コレステロールが高いと言われたら?数値を下げる方法は?」も見てみてください。

脂質異常症には大きく分けて、

  • ・悪玉コレステロールが高い場合(高LDL血症)
  • ・中性脂肪が高い場合(高TG血症)

と2つのタイプがありますが、悪玉コレステロールが高い場合に、特にスタチンの効果が高く、最初に使われるお薬となっています。今回はスタチンについてお話ししていきたいと思います。

 
1. スタチンとは

体内のコレステロール値が高い状態が続くと、血管の壁にはプラークと呼ばれる脂の塊ができ、動脈硬化を引き起こします。
動脈硬化により血管の弾力性が失われると、脳卒中や心筋梗塞などを起こしやすくなってしまいます。

スタチン系薬は、血中のコレステロール値を下げる薬です。 この系統に属するお薬の一般名は、ロスバスタチンやアトルバスタチンなど、語尾に「スタチン」と付くことからスタチン系薬とよばれています。

 

2. 作用機序

肝臓では1日に約1-1.5g、食事からとるコレステロールの約5倍の量のコレステロールが作られます。

*ここから具体的な説明に入りますが、聞き慣れない単語が出てきますので、読み飛ばしていただいても構いません。

ちなみにCoAというのは、coenzyme Aの略で日本語に訳すと補(co)酵素(enzyme) Aのことですが、通常そのままCoAと呼びます。

【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用

肝臓ではアセチルCoAを原料としてHMG-CoAが作られます。

HMG-CoAは、HMG-CoA還元酵素の作用によりメバロン酸に変換され、コレステロールができます。
そして、コレステロールを材料として胆汁酸が作られます。

スタチンは、HMG-CoAをメバロン酸に変換するために必要なHMG-CoA還元酵素の働きを阻害(邪魔)することで肝臓内でのコレステロール合成を抑制します。

 

3. 種類

3-1. スタンダードスタチンとストロングスタチン

スタチンは現在6種類が販売されており、悪玉コレステロールを下げる強さが比較的マイルドな「スタンダードスタチン」と、より強力な「ストロングスタチン」があります。

一般名 主な商品名 規格
スタンダード
スタチン
プラバスタチン メバロチン 5mg, 10mg
シンバスタチン リポバス 5mg, 10mg, 20mg
フルバスタチン ローコール 10mg, 20mg, 30mg
ストロング
スタチン
ロスバスタチン クレストール 2.5mg, 5mg
ピタバスタチン リバロ 1mg, 2mg, 4mg
アトルバスタチン リピトール 5mg, 10mg

臨床試験成績の結果を参考にすると、悪玉コレステロールの低下率は、

  • ・スタンダードスタチン…約15-20%
  • ・ストロングスタチン…約30-40%

とストロングスタチンはスタンダードスタチンの約2倍であることがわかります。

スタンダードスタチンとストロングスタチンのどちらがよい、というわけではなく、治療目標にあわせて使い分けをしますが、実際には効果の高さからストロングスタチンを用いるケースが多いです。

 

3-2. 実際の処方量はストロングスタチンの方が多い

厚生労働省の公開しているNDBオープンデータ(平成28年度)をもとに、スタチン製剤の外来院外処方数量を成分別にランキングしたものが以下になります。

順位 一般名 処方量
第1位 ロスバスタチン 約10億4000万
第2位 アトルバスタチン 約8億6400万
第3位 ピタバスタチン 約4億7300万
第4位 プラバスタチン 約4億7100万
第5位 シンバスタチン 約8100万
第6位 フルバスタチン 約6000万

第1位はロスバスタチン、第2位はアトルバスタチン、第3位はピタバスタチンと、 ストロングスタチンが上位を独占 しています。

 

3-3. ストロングスタチン内では効果・副作用に大きな違いはない

1日量をクレストール 2.5mg、リピトール 10mg、リバロ 2mgに設定して比較した研究 (PATROL試験 Circ J. 2011;75(6):1493-505)では、LDL-C値やトリグリセリド値を下げる効果は同じで、副作用の発生頻度も同じだったことが示されています。

ただし、3剤の中でクレストールは最も用量の幅が広く、最大通常量の8倍である20mgまで増量することができ、より厳格にコレステロールを下げることが可能です。

【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用

 

3-4. 投与量を8倍にしたら効果も8倍?

クレストールが通常量に対する最大用量が最も多いストロングスタチンであることはさきほどお話しした通りですが、投与量を8倍にしたら悪玉コレステロールを下げる作用も8倍になるのでしょうか。

残念ながらそうはならず、下表の通り、用量を倍に増やしても6%しか効果が発揮できないことがわかっています。これは俗に「6%ルール」と呼ばれています。

【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用

これは、肝臓内でのコレステロール合成を抑えると、今度は代償性に小腸からのコレステロール吸収を増やして血中のコレステロール量を均一に維持しようとする機構が働くため、と考えられています。

 

3-5. 配合剤について

本来組み合わせて処方されるお薬の成分を1つのお薬の中に配合したお薬のことを配合剤といいます。スタチンには主に2種類の配合剤があります。

 

3-5-1. スタチンとゼチーアの配合剤

悪玉コレステロールがスタチンの増量だけでは十分にコントロールするのが難しいことはさきほどお話ししましたが、一つの解決法として、小腸のコレステロール吸収を阻害するエゼチミブ(ゼチーア®︎)の併用が注目されています。

スタチンで合成を抑制すればするほど、代償性に亢進する腸管からのコレステロールを抑制することでより強力なコレステロール低下作用が得られます。

【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用 MSD社ホームページより

 

クレストールを投与しても悪玉コレステロールが十分に低下しなかった患者さんにゼチーアの10mgを追加したところ25%近く悪玉コレステロールが低下しています。

最近では、

  • ・リピトールとゼチーアが1粒になったアトーゼット配合錠
  • ・クレストールとゼチーアが1粒になったロスーゼット配合錠

が発売されており、ストロングスタチンだけでは悪玉コレステロールが下がりきらない方へ使用されています。

 

3-5-2. スタチンとカルシウム拮抗薬の配合剤

カルシウム拮抗薬は、血圧を下げるときに使うよく使用される降圧剤です。 脂質異常症(高脂血症)と高血圧は、合併することもしばしばあることから、同時に治療できる配合剤が発売されています。

代表的なカルシウム拮抗薬であるアムロジピンとリピトールの配合剤がカデュエット配合錠(カルシウム拮抗薬のデュエットという由来)として発売されており、すでにアマルエット配合錠というジェネリック医薬品も発売になっています。

 

4. 副作用

【医師が解説】脂質異常症治療薬:スタチン系薬の効果と副作用

スタチンは処方量が多く、後述する横紋筋融解症という有名な副作用の報告があることから週刊誌などで
「飲み続けてはいけない薬」といった特集で取り上げられる薬の筆頭です。

主な副作用と頻度ですが、クレストールの添付文書で確認してみますと、

  • ・筋肉痛(3.2%)
  • ・肝機能の数値(GPT)上昇(1.7%)
  • ・CK(CPK)-筋肉が壊れた時などにあがる数値-上昇(1.6%)

となっています。

また重大な副作用として

  • ・横紋筋融解症(0.1%未満)
  • ・間質性肺炎(0.1%未満)

などの記載があります。

 

横紋筋融解症ってどんな病気?

週刊誌等でセンセーショナルに取り上げられることのある副作用に横紋筋融解症があります。

筋肉が融解(溶ける)病気、という文字が使われているので字面から想像すると不気味な印象を持ちます。

横紋筋は体を動かす骨格筋や心臓を動かす心筋を指します。横紋筋融解症は、特に骨格筋にみられ、骨格筋を構成する筋細胞が壊れることで、筋肉痛や脱力を生じる病気です。

軽度の筋肉痛や筋障害は数%程度と言われていますが、横紋筋融解症はこれよりもずっと重篤な病気で、筋肉が壊れたことにより筋肉から流出したミオグロビンという物質が腎臓に作用して急性腎不全などを起こすことがあります。

 

実際の頻度はどの程度?

スタチンによる横紋筋融解症に関する大規模な研究(N Engl J Med 2002; 346:539-540)によれば、

  • ・プラバスタチン(メバロチン®︎)は8136万処方で3例、
  • ・ロスバスタチン(クレストール®︎)は9919万処方で19例、
  • ・アトルバスタチン(リピトール®︎)は1億4036万処方で6例

となっており、極めて稀であることがわかります。

重篤な副作用が高頻度で出てしまう薬は、治療薬として用いることは当然できませんし、販売後に思わぬ副作用が出てしまい、処方に制限が出たり、販売中止になったりする薬も稀にあります。

しかし、スタチン薬は1989年の製品化以来、大きな問題なく広く使われています。これこそが「使ってはいけない薬」ではない最大の証明ではないでしょうか。

 

© 2020 Inui pediatrics and internal medicine clinic

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