「この前、血圧を測ったら150くらいあったのですが大丈夫でしょうか?」
高血圧で受診される方が高血圧を自覚するきっかけは、健診などで指摘されるほかに、職場や温泉など、ふとしたタイミングで測ったり、違和感を感じた時に自宅にあった血圧計で測定したりといろいろです。
実は、血圧は1日の中で変動しており、激しい運動をすれば血圧は当然上がりますが、普通に生活していても血圧は変動します。
血圧は常に一定ではないので、たった一度の測定では血圧は決められません。なぜなら、血圧は食事や運動、ストレス、気温の変化など様々な要因で変動するからです。
今回は血圧の変動と特徴についてまとめていきたいと思います。
血圧は1日の中で変動している
血圧は睡眠と覚醒、体位、精神的ストレス、食事、気温など刻々と変化する身体的、心理的状況と環境因子の影響によって常に変化しています。
1日の中では、活動性の上がる昼間に上昇し、夜間に低下するように調整されています。
血圧以外にも心拍数やホルモン分泌など、さまざまな生理機能や行動・睡眠は、約1日のリズムであるサーカディアンリズム(概日リズム)、いわゆる「体内時計」により調節されています。
血圧日内変動の4つのタイプ
血圧のサーカディアンリズムが正常であれば、夜間血圧は昼間の覚醒時と比較して10-20%低下します。
これの正常型をdipperと呼びます(dipは下降の意味)。
夜間の血圧低下が少ないタイプ(夜間血圧降下度0-10%)をnon-dipper、20 % 以上を extreme-dipper、逆に夜間に血圧上昇を示すタイプをriser(riseは上昇の意味)と分類しています。
non-dipper型を示す場合には、dipper型よりも心血管疾患や脳梗塞の発症が多く、同様に早朝の血圧上昇(モーニングサージ)は全死亡、心血管疾患・脳梗塞の発症リスクとなります。
血圧は季節によっても変動している
春から夏の気温が上昇している季節には血圧は下がり、秋から冬にかけて気温が低下する季節には血圧は上昇する傾向にあります。
冬場の血圧上昇は、寒さによる血管の収縮や、血圧を上げることによって体温を維持しようとする体の働きに加え、運動量が減少したり塩分の多い食事が増えたりすることも理由として考えられています。
変動値は測るタイミングや環境、個人によって差があるものの、平均すると2-5mmHg程度とされています。
しかし、中には冬に10mmHg以上の血圧上昇を示したり、逆に夏に血圧が高くなったりする患者さんも存在し、こういった方は心臓や血管の病気を起こしやすいこともわかっています。
家庭血圧の測り方
血圧の変動を把握するためには、診察室での血圧測定だけでなく、家庭で血圧を測定することが重要です。
家庭血圧は、可能であれば毎日朝と夜にそれぞれ2回ずつ測り平均値をそのときの血圧とします。
朝は起きてから1時間以内で、トイレに行った後、朝食をとる前、血圧の薬をのんでいる方は薬をのむ前に測ります。
夜は入浴、飲酒、食事の直後は避けて、寝る前の落ち着けるときに測ります。
測定するときは、背もたれのあるイスに脚を組まずに座ります。脚を組んだり、あぐらをかいたりすると、血流に影響が出て血圧が上がりやすいためです。
血圧計はベルト(カフ)を上腕に巻くタイプが最も正確です。手首に血圧計を付けるタイプを使っている方は、値がこのタイプで測った場合と大きく違っていないか、一度確認しましょう。
ベルトはしっかり巻きます。薄手のシャツは その上からでもかまいません。厚手の服は脱ぐ必要があります。
よく上着をまくり上げる方がおられますが、まくり上げた上側が締め付けられてしまうため、おすすめできません。
手のひらを上に向け、力を抜きます。この状態で1-2分待ち、落ち着いてから測定します。
血圧測定をしたら記録しましょう。携帯のアプリやかかりつけ医などからもらえる血圧手帳などに記録し、診察時に持参すると薬剤調整の参考になります。
血圧の変動を減らすには?
血圧は変動していること、大幅な変動は心筋梗塞や脳梗塞などのリスクになることなどについてお話ししてきましたが、大きな変動を減らすためには何をしたらよいのでしょうか。
家庭血圧の測定による把握
まずは自分の血圧がどの程度変動しているかを把握する必要があります。先ほど解説した方法を参考に家庭血圧を測定しましょう。
数日では日ごとの変動もあり数値が定まらないこともありますが、記録を続けていくとご自身の血圧が変動する傾向や幅が見えてくると思います。
実際に評価を行う場合には数値の平均値などを用いるとよいでしょう、
季節に合わせた環境整備
夏場は脱水や塩分不足、冬場は寒冷などにより血圧が大きく変化することがあります。特に冬場の入浴前後での急激な血圧変化は「ヒートショック」と呼ばれ、危険です。
詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
2019.01.25
環境整備や脱水・塩分不足や過剰摂取に注意することが大切です。
変動に合わせた薬剤調節
血圧変動のパターンを家庭血圧の測定で把握した上で、変動パターンにあわせて薬の飲むタイミングや量を調節していきます。
具体的には、冬場に血圧が全体的に上がる場合には、冬場だけお薬の量を増やす、夏場に脱水が心配される場合には利尿薬の量を減らすなどの調整を行います。
血圧変動のパターンや家庭環境、生活習慣などは人によりそれぞれです。家庭血圧の測定だけでなく、個々の特徴にあわせてお薬の調整を行なっていくことが重要です。
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