意外と多い遺伝性の脂質異常症「家族性高コレステロール血症」の特徴・治療法|高崎市 乾小児科内科医院|アレルギー科・循環器内科(心臓血管内科)

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意外と多い遺伝性の脂質異常症「家族性高コレステロール血症」の特徴・治療法

2021.03.12

意外と多い遺伝性の脂質異常症「家族性高コレステロール血症」の特徴・治療法

 
 

「健診でコレステロール値が高いといわれました」と来院される方に詳しくお話を聞いてみると他のご家族もコレステロール値が高かった、ということは少なくありません。

脂質過多の食生活を共有しているから、運動不足のライフスタイルが共通しているから、などの要素があることもしばしばですが、そうでない方もいらっしゃいます。

また、家族に同じような病気があると「遺伝ですか?」といわれることも、よく経験しますが、病気はいろいろな要素が関係して起こっていることも多く、なかなか遺伝性の要因だけ、と断定するのが難しいことが多いのもまた事実です。

ところが脂質異常症に関しては、遺伝的にLDL(悪玉)コレステロールが高くなってしまう病気が200-500人に1人とそれなりの頻度で存在するのですが、意外と知られていません。

今回は意外と多い遺伝性の脂質異常症「家族性高コレステロール血症」についてまとめていきたいと思います。

 

脂質異常症とは

血液中のコレステロール値が高い状態を脂質異常症といいます。
通常の検査で確認する血液中の脂質にはLDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、中性脂肪の3種類があります。

健康な方ではLDLコレステロールが140mg/dL未満、HDLコレステロールが40mg/dL以上、中性脂肪が150mg/dL未満であり、これらの値を外れた場合に脂質異常症となります。

つまり「悪玉コレステロールと中性脂肪の値は高いとよくない。善玉コレステロールの値は低いとよくない」ということになります。

中でも悪玉コレステロールは心筋梗塞や脳梗塞の大きなリスク要因として重要視されています。

 

脂質異常症の人はどのくらいいるか

さて、脂質異常症の患者さんは、日本にどのくらいいるのでしょうか?

厚生労働省が3年ごとに実施している患者調査(2017年)によると、脂質異常症の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、220万5000人でした。

性別では、男性63万9000人、女性156万5000人で、女性は男性の2.4倍でした。

 

生活習慣病としての脂質異常症

脂質異常症は、一般的には油っぽい食事、お酒の飲み過ぎ、食物繊維の摂取不足などの不健康な食生活、運動不足、肥満、喫煙など生活習慣の乱れになどよって生じます。

このような生活習慣の乱れによって生じる病気をまとめて「生活習慣病」と呼んでおり、高血圧や糖尿病なども生活習慣病に含まれます。

一般的に、同じ生活をしていても年齢が上がれば生活習慣病にかかりやすくなり、健康な状態を保つのにはより注意が必要になってきます。

 

脂質異常症の何がいけないの?

それでは脂質異常症の何が問題なのでしょうか?

実は、脂質異常症があってもそれ自体ですぐに本人の体調に変化が現れることはめったにありません。

しかし、脂質異常症、高血圧、糖尿病をはじめとした生活習慣病があると、知らず知らずのうちに、全身の動脈硬化が進み、将来心筋梗塞や、脳梗塞など大きな病気にかかる可能性がはね上がります。

心筋梗塞や脳梗塞は命に関わることもある大きな病気ですので、将来これらの病気にかからないように予防することが、生活習慣病の治療をする最も大きな目的です。

 

LDLコレステロールとHDLコレステロールの働き

意外と多い遺伝性の脂質異常症「家族性高コレステロール血症」の特徴・治療法

LDLコレステロールは肝臓から全身の細胞にコレステロールを届ける役目をしています。しかし必要以上にコレステロール が増えてしまうと使われずに残った血液の中にある過剰なコレステロールが動脈の壁に次々と入り込み、動脈硬化を引き起こします。そのため「悪玉コレステロール」と呼ばれています。

HDLコレステロールは全身から不要なコレステロールを回収する役目をしています。こちらは動脈硬化を予防する働きがあり「善玉コレステロール」と呼ばれています。

健康を保つためには、コレステロールが過剰にならないよう、HDLとLDLがバランスよく機能していることが大切です。

 

家族性高コレステロール血症とは

脂質異常症は生活習慣病の1つであり、ライフスタイルに問題がある方がなりやすい、というお話をしました。しかし、やせていて、運動習慣もあり、食生活に気をつけていても、脂質異常症になってしまうことがあります。

その1つが「家族性高コレステロール血症」で、遺伝的にLDLコレステロールが高くなってしまう病気です。

英語では familial hypercholesteremiaといい、略してFHと呼ばれています。

FHの方は、LDLを肝臓で取り込む受容体の遺伝子やこれを働かせる遺伝子に異常があります。そのため、血液中のLDLコレステロールが細胞に取り込まれにくくなり、血液中のLDLコレステロール濃度が上がってしまいます。

適切に治療がされないと、若いときから動脈硬化が進み、血管が狭くなったり詰まったりします。心臓の血管が詰まれば心筋梗塞を、脳の血管が詰まれば脳梗塞を引き起こします。

 

診断は?

家族性高コレステロールの診断は以下の3つの項目のうち2つ以上当てはまることが条件です。

1. 高LDLコレステロール血症(未治療時 180mg/dl以上)
2. 腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
3. FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)

脂質異常症診療ガイド2018年度版(日本動脈硬化学会)をもとに作成

腱の肥厚では、アキレス腱の肥厚(分厚くなる)が最も特徴的で、X線撮影上9mm以上が基準となっています。

一部の患者さんは、皮膚にコレステロールが沈着した黄色っぽい隆起(皮膚黄色腫(しゅ)と呼ばれます)が、手の甲、膝(ひざ)、肘(ひじ)、瞼(まぶた)などに見られます。

重症度は遺伝子異常の程度により様々ですが、ほとんどの方は軽症のタイプです。

 

治療は?

家族性高コレステロール血症の人は普通の人と比べ特にコレステロールが上昇しやすく、将来の心筋梗塞や脳梗塞を予防するために、より厳密な生活習慣改善や薬物治療が必要となります。

コレステロールや動物性脂肪の少ない食事に変え、生活習慣の改善を心がけましょう。たばこを吸っている人は禁煙が重要です。また、家族の禁煙も欠かせません。

生活習慣の改善でコントロールできない場合、薬物療法(主にスタチン系の薬剤)が必要になります。 1種類の薬剤でコントロールできなくても、薬の量を増やしたり、2種類以上の薬剤を服用したりすれば、十分な効果が得られる場合が少なくありません。

スタチンだけで十分な効果が得られない場合、コレステロール吸収阻害剤であるゼチーア(エゼチミブ)、胆汁酸吸着レジンであるクエストラン(コレスチラミン)やコレバイン(コレスチミド)などを併用します。

これらの薬剤を併用しても、LDLコレステロールのコントロールが十分でない患者さんに対しては、PCSK9阻害薬であるレパーサ(エボロクマブ)やプラルエント(アリロクマブ)という注射剤を使用することもあります。

 

まとめ

家族性高コレステロール血症は、生まれた時からLDLコレステロールが高く、心筋梗塞などの動脈硬化に関わる病気になりやすい特徴があります。

しかし、きちんと診断され、適切な治療を受ければ、病気のリスクを減らすことができます。私もそうではないかと思う方は、医療機関を受診するとよいでしょう。

 

© Inui pediatrics and internal medicine clinic

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