糖尿病・新薬マンジャロ(チルゼパチド)の特徴は|高崎市 乾小児科内科医院|アレルギー科・循環器内科(心臓血管内科)

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HbA1c低下・体重減少効果ともに史上最大級!糖尿病・新薬マンジャロ(チルゼパチド)の特徴は

2023.02.10

糖尿病治療ではたくさんの飲み薬、注射薬がありますが、本日は昨年9月に国内製造販売が承認され、2023年中の発売が見込まれている新薬:マンジャロについて解説していきたいと思います。

 

世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬

マンジャロは、
・GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide: グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド)と
・GLP-1(glucagon-like peptide 1: グルカゴン様ペプチド-1)という
血糖管理に関与する2つのインクレチン作用を担うホルモンに対して作用する世界初の薬剤になります。

インスリンの作用とGIPとGLP-1について概説していこうと思いますが、やや専門的な内容になりますので、読みにくく感じる方は、効果や特徴のあたりまで読み飛ばしてしまってもいいかもしれません。

 

インスリンの働きとGIP、 GLP-1の関係

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血液中のブドウ糖を細胞内にエネルギーとして取り込む働きがあります。
この働きによって、インスリンは血液中のブドウ糖を減らしている(=血糖値を下げる)のです。

インスリンは血糖値を下げる作用があるわけですが、血糖値が高くないときに働いてしまうと、血糖値が下がりすぎ、低血糖を起こしてしまいます。

そこで体内では他のホルモンによってインスリンの分泌を調節しているのですが、GIPやGLP-1は、食事に伴い消化管から分泌され、インスリン分泌を促す働きがあります。

 

すい臓でのGLP-1の働き

GLP-1はGlucagon Like Peptide-1(グルカゴン様ペプチド-1)という消化管ホルモンで、小腸や大腸に存在しています。

食事をして、消化管の中に食べ物が入ってくると、小腸からGLP-1が分泌され、その一部は、血液の中を流れてすい臓に運ばれます。

すい臓にたどりついたGLP-1は、すい臓に働きかけて、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌を促します。

分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込み、結果的に血糖値を低下させます。

この仕組みはよくできていて、食事をしていないとき、つまり血糖値が高くないときにはGLP-1は分泌されず、インスリンも出てきません(血糖依存的なインスリン分泌促進)
そのため、低血糖を起こしにくいという特徴があります。

また、すい臓から血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制することでも、血糖値を下げる働きを持ちます。

 

GLP-1のすい臓以外への作用

GLP-1はすい臓に働きインスリン分泌を促す以外にも糖代謝に重要な働きをしていることが知られています。

1. 胃運動抑制作用:胃の消化運動を遅らせることで食後血糖値の上昇を抑えます

2. 食欲抑制:中枢神経系に働き、食欲抑制効果を介して体重を減少させます。

インスリンを介しての直接的な血糖コントロール改善効果だけでなく、これらの従来の糖尿病薬にはない体質改善効果ともいうべき働きもあることからGLP-1は注目されています。

 

すい臓でのGIPの働き

GIPはGlucagon Like Peptide-1(グルカゴン様ペプチド-1)という消化管ホルモンで、主に小腸に存在しています。

GIPは、もともと胃酸分泌を抑制するホルモンとして発見されましたが、健常者にGIPを投与したところインスリン分泌の促進作用か゛確認され、インクレチンて゛あることか゛証明されました。この働きはGLP-1と同様です。

ただし、血糖を上昇させる働きのあるグルカゴンの分泌は、GLP-1と異なり促進します。

 

GIPのすい臓以外への作用

GIPは、脂肪組織に作用して、中性脂肪(TG)の蓄積を促進します。これは、飢餓があった時代に摂取した栄養を効率よく生体に蓄積する仕組みとして必要だったためと考えられています。またGIPは骨芽細胞に直接的に作用し、骨芽細胞内 cAMP 濃度の間欠的な上昇を介して食事中のカルシウムを骨に蓄え、骨代謝を調節していると考えられています。

GLP-1、GIPの作用をまとめるとこんな感じになります。

どちらにも血糖依存的なインスリン分泌促進作用があり、その強さはGIP>GLP-1ではないかと考えられています。

 

マンジャロ(チルゼパチド)の作用機序

マンジャロは、GIPとGLP-1の2つの受容体に対する作動薬です。過去の報告では、マンジェロは、GIP受容体への親和性は生体のGIPのGIP受容体への親和性と同等、GLP-1受容体への親和性は生体に比べ約5倍弱いことが示されています*1(=GIPへの作用の方が強い)。

 

HbA1c低下度、体重減少効果ともに史上最強!?

マンジャロについての臨床試験は、SURPASS1?6、SURPASS CVOT、SURPASS J-mono、J-combo、AP-comboと10種類が終了または進行中です。

その効果は従来のGLP-1注射薬や内服薬の効果を大きく上回るものであり、注目を集めています。

その中でも今回は日本人を対象としたSURPASS J-mono*2をみていきたいと思います。

 

SURPASS J-mono試験

SURPASS J-mono試験は、血糖降下薬を未使用(食事/運動療法のみで,HbA1c≧7.0%かつ≦10.0%)または血糖降下薬を1剤のみ使用(チアゾリジンジオン系薬剤を除く)で8週間のwash-out期間に服用の中止に同意した患者さん(スクリーニング前HbA1c 6.5~9.0%,washout後HbA1c 7.0~10.0%)を対象に以下の4群を比較した第Ⅲ相臨床試験です。

  • マンジャロ5mg群
  • マンジャロ10mg群
  • マンジャロ15mg群
  • トルリシティ0.75mg群(標準用量)

主要評価項目は「ベースラインから52週後までのHbA1cの変化量」とされ、結果は以下の通りでした。

52週間(約1年)の間に、現在GLP-1受容体作動薬シェアNo.1であるトルリシティは、ベースラインからHbA1cを1.3程度下げたのに対して、マンジャロは2.4-2.8と大きく低下させていることがわかります。

 

体重減少効果もすごい

SURPASS J-monoでは、体重減少効果についても検討されています。

体重はベースラインから52週後までにマンジャロ5 mg群で-5.8 kg(SE 0.4,-7.8%),10 mg群で-8.5 kg(0.4,-11.0%),15 mg群で-10.7 kg(0.4,-13.9%)と用量依存的に有意な減少を認め、トルリシティ0.75 mg群では-0.5 kg(SE 0.4,-0.7%)でした。

この体重減少効果は史上最強クラスと言っていいと思います。78kgの人が10kg減ったら、見た目も随分変わりますし、インスリン抵抗性も下がりますし、発売が大いに期待される結果と言えるでしょう。

 

マンジャロvs オゼンピック

欧米人を対象とした研究結果にはなりますが、現在販売されている中で最も体重減少効果の強いGLP-1製剤であるオゼンピックとマンジャロの効果を直接比較したSURPASS 2*3という研究があります。

SURPASS-2試験は、メトホルミン単剤投与下でコントロール不良の2型糖尿病患者さん(18歳以上、HbA1c 7.0~15.0%、BMI≧25.0 kg/m2)を対象に、

  • マンジャロ5mg群
  • マンジャロ10mg群
  • マンジャロ 15mg群
  • オゼンピック1mg群(最大用量)

を比較した第Ⅲ相臨床試験です。

参加者の平均年齢は56.6歳,女性53.0%,平均HbA1c 8.28%,糖尿病罹病期間8.6年,体重93.7 kg,BMI 34.2 kg/m2と肥満度がかなり高い患者さんが対象になっています。

主要評価項目である投与40週時におけるベースラインからのHbA1c変化を見ると、マンジェロは全ての用量群で、オゼンピックよりも有意にHbA1cを低下させていました。

体重変化についても、マンジェロ群ではオゼンピック群よりも有意な体重減少を認めました。最大用量同士で比較するとオゼンピック:-5.7kgに対してマンジャロ:-11.2kgと倍近い体重減少効果を示しており、大きな注目を集める結果となっています。

 

用法・用量

通常、成人には、チルゼパチドとして週1回5mgを維持用量とし、皮下注射します。

ただし、週1回2.5mgから開始し、4週間投与した後、週1回5mgに増量します。

なお、患者さんの状態に応じて適宜増減しますが、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量できます。ただし、最大用量は週1回15mgまでとなっています。

マンジャロ取扱説明書(日本イーライリリー株式会社)より一部改変

デバイスは日本イーライリリーより販売されているGLP-1作動薬「トルリシティ」と同じ「アテオス」になります(当てて、押す)。

用量調節が不要、使いやすい、というメリットはありますが、剤型が6種類もあって薬局の管理は大変そうだなぁ、と個人的には思いました。

 

副作用

最も多く認められた治療関連有害事象は、嘔気(マンジャロ5 mg群12%,10 mg群20%,15 mg群20%,トルリシティ群8%)、便秘(15%,18%,14%,11%)、鼻咽頭炎(18%,16%,14%,16%)でした。

最も多い有害事象は胃腸障害でした(4%,3%,7%,1%)。低血糖症(70 mg/dL未満)は0%,2%,5%,1%であり、高度の低血糖症(54mg/dL未満)は15 mg群の2例(1%)のみでした。

 

発売は2023年内?

マンジャロは2022年9月に薬事承認されましたが、製造販売元である日本イーライリリーは、同年11月の薬価収載に向けた申請を見送っています。

この理由について同社は、「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬に対する世界的な需要拡大に備えるため、同薬の安定供給に向け、製造ラインの増強を図っている」としており、発売時期は未定となっています。

血糖、体重管理に難渋している糖尿病患者さんを中心に大きな期待が持たれ、より幅広く使用される薬剤になりそうです。

 

*1 Tamer C, et al. Mol Metab. 2018; 18:3-14

*2 Inagaki N, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2022; 10:623-33

*3 Frias JP, et al. N Engl J Med. 2021; 385: 503-515.

 

c Inui pediatrics and internal medicine clinic

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