昨年発売された抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」は、マスコミ等で大きく取り上げられ話題になりました。しかし、先日同薬について日本小児学会、日本感染症学会が12歳未満のお子様に対する使用を推奨しないとの声明を相次いで発表しました。
今回はこの発表に至った背景、理由、影響についてお話ししたいと思います。
抗インフルエンザ薬は、「インフルエンザウイルスの増殖を抑えて1日ぐらい早く治す薬」です。ウイルスが増えているのは最初の2日間なのでかかってから48時間以内に使わないと効果が出にくい、とされています。
最初に出たのが飲み薬のタミフルで昨年からジェネリックも登場しました。その後吸入薬のリレンザ、イナビル、点滴薬のラピアクタが登場し、昨年5番目の抗インフルエンザ薬としてゾフルーザが登場しました。
ゾフルーザの特徴は、「1回内服するだけよい」ということです。効果としては、プラセボ(偽薬)と比較して治りが早く、タミフルと同等だったという研究データをもとに承認されています。
使用が簡便であること、マスコミで大きく取り上げられたことなどもあってか、ゾフルーザは2018/2019シーズンの抗インフルエンザ薬で市場シェアの40%と最大シェアを占めた薬でした。
では、なぜ日本小児学会、日本感染症学会が相次いで12歳未満への推奨しない、との声明を発表したのでしょうか。
それは、ゾフルーザを使用するとインフルエンザウイルスに耐性ができやすいことがわかってきたからです。
そもそもゾフルーザに耐性ができやすいことは昨年3月の発売時点から分かっていたことで、承認にあたって行われた治験では、12歳未満の小児で77例中18例(23.4%)、成人と12歳以上の小児で370例中36例(9.7%)から耐性ウイルスを検出されました。
そのため、感染症治療で有名な千葉県の亀田総合病院は当初から採用を見送っており、当院でもタミフルで嘔吐があったため使用できなかった方でご本人から使用の希望があったお一人以外は処方しませんでした。
耐性の問題は今年1月末に国立感染症研究所より発表がなされ、話題となった影響もあり、公表されている卸から医療機関への供給量では、シーズン前半(18年10~12月)はゾフルーザが47.0%を占めたものの、後半(19年1~3月)は36.7%と10ポイント以上減少。特に2月は、タミフルやイナビル、タミフル後発品に続く4番手に後退していました。
それでも「1回飲むだけでよい飲み薬」という利便性はあることから一定数の処方は予想されます。
感染症治療薬では耐性とのいたちごっこはよくあることで、10年ほど前にはタミフルに耐性を持つインフルエンザウイルスが流行しています。ゾフルーザについては、昨年販売開始となったばかりのため耐性変異が実際の治療効果にどのような影響を及ぼすのかも、まだはっきりとわかっていません。
ゾフルーザは従来の抗インフルエンザ薬と異なる作用機序のため、従来の薬が効きにくい方にとっては非常に重要な選択肢となる薬です。耐性ウイルスが広まって、本当に必要な時に使えなくなってしまうようなことにしないためにも、適切に使用していく必要があると思います。
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