ミネブロ(一般名:エサキセレノン)は、非ステロイド型のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬に分類される高血圧の治療薬です。
ミネラルコルチコイド受容体 拮抗薬(=ブロッカー)からミネブロと命名されました。
2019年1月8日に承認を受けた新薬で、2020年3月1日より長期処方が解禁となりました。ミネブロの特徴についてみていきたいと思います。
目次
第一三共株式会社HPより
通常2.5mgから開始し、効果不十分な場合は、5mgまで増量できます。
1.25mg錠は
に新規で開始する場合などで用います。
・ミネラル受容体拮抗薬って何?
ミネブロはその名の通りミネラルコルチコイド受容体を阻害することで降圧作用を発揮する薬です。
これではいまひとつよくわかりませんね。
少し説明が長くなりますがお付き合いください。
2-1. レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系
体内の血圧や、電解質、体液バランスの調節をしているレニンーアンギオテンシンーアルドステロン系(長いので頭文字を取ってRAS“ラス”系ともよびます)という仕組みがあります。
腎臓の糸球体の壁には傍糸球体装置と呼ばれる部分があり、血圧を感知して、レニンと呼ばれる物質の分泌を調節しています。
分泌されたレニンは、肝臓で合成されたアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠ(ATⅠ)に変換します。
その後、ATⅠは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシン(ATⅡ)に変換されます。
ATⅡの働きにより血管は収縮し、血圧上昇を引き起こします。
また、ATⅡは副腎皮質に作用しアルドステロンというホルモンの分泌を促進します。
2-2. アルドステロンの作用により血圧が上昇
アルドステロンは、腎臓の尿酸管上皮細胞にあるミネラルコルチコイド受容体(MR)と結合する(くっつく)ことで、尿中ナトリウムと水分の再吸収を促進します。
ナトリウムには水分をひっぱる作用があり、血液内を巡る血液量が増えることで、結果的には血圧が上昇します。
2-3. ミネブロはアルドステロンのMRへの結合を邪魔する
ミネブロは、ミネラルコルチコイド受容体に結合することで、アルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に結合しにくくします。
椅子取りゲームで例えると「ミネブロはアルドステロンが座ろうとするMRという椅子に座ってしまう」ことで、アルドステロンがMRに座れない状態を作っています(専門的には競合的拮抗といいます)。
このことにより、アルドステロンはミネラルコルチコイド受容体に結合しにくくなり、結果として血圧が下がります。
ミネブロはミネラルコルチコイド受容体(MR)をブロックし、アルドステロンの作用を阻害するMR拮抗薬(アルドステロン拮抗薬とも呼ばれる)の第3世代です。
第1世代がアルダクトン(スピロノラクトン)、第2世代がセララ(エプレレノン)になります。それぞれの特徴を表にまとめてみました。
世代 | 構造 | 商品名 (一般名) |
適応 | 半減期 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
第1世代 | ステロイド骨格 | アルダクトン (スピロノラクトン) |
高血圧症 | 約12時間 | MR選択性が低く、女性化乳房などの副作用が出やすい |
第2世代 | セララ (エプレレノン) |
高血圧症 慢性心不全 |
約5時間 | MR選択性が高く、女性化乳房などの副作用が出にくい | |
第3世代 | 非ステロイド骨格 | ミネブロ (エサキセレノン) |
高血圧症 | 約19時間 | MR選択性が高く、女性化乳房などの副作用が出にくい |
第1世代のスピロノラクトンは、MR阻害作用は強いものの、MR選択性が低いため、性ホルモン受容体を介して女性化乳房や月経異常などの副作用を発現しやすい特徴がありました。
第2世代のエプレレノンは、MR選択性が高く内分泌性副作用は低減されましたが、中等度以上の腎機能障害(クレアチニンクリアランス50mL/分未満)患者さんや、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。
第1・第2世代MR拮抗薬とは異なり、エサキセレノンはステロイド骨格を持ちません。そのためステロイドホルモン様作用がなく、内分泌性副作用はエプレレノンと同等かさらに軽減されています。また、既存のMR拮抗薬よりも消失半減期が長く、作用が長続きします。
第1世代のアルダクトンと第2世代のセララは、女性化乳房を代表とする内分泌性副作用が出やすいかどうか、という違いがありましたが、第2世代と第3世代の違いはどこにあるのでしょうか。
4-1. 非ステロイド骨格
第3世代であるミネブロは、第1、第2世代の薬剤と異なり、ステロイド骨格を持ちません。そのため、より内分泌性の副作用が出にくいと考えられます。
実際、厚生労働省が公開しているミネブロの審査報告書には、
「本剤の投与では、性ホルモン関連有害事象の発言に関しての懸念はほぼないと考えられ、性ホルモン関連有害事象に関する注意喚起は不要と考える。」
と記載されています。
4-2. 作用時間が長い
先ほどお示しした世代ごとの特徴をまとめた表にもある通り、ミネブロはセララに比べて作用時間が長い(半減期:薬の濃度が半分になるまでの時間がセララ約5時間に対してミネブロは約19時間)ことがあります。
高血圧に対して使う場合、セララはアメリカ心臓病学会(AHA)のガイドライン
では1-2回/日の内服とされていますが、ミネブロは既存のMR拮抗薬よりも消失半減期が長く、作用が長続きするため、1日1回投与となっています。
(注:セララも日本では1日1回で承認を受けています)。
4-3. 降圧効果
国内第Ⅲ相試験(安全性が確認されている薬の販売前に効果や有効性、安全性を確認する治験)として行われたESAX-HTN試験があります。
この研究は、本態性高血圧症患者さんを対象にセララに対するミネブロ(2.5mg/日 or 5.0mg/日)の降圧効果を比較したものです
(本来の目的は非劣性:先行して販売されているセララに対して、十分な降圧効果が得られることを証明すること)。
ミネブロ2.5mg、5mg 又はセララ50mg を 1 日 1 回 12 週間、朝食後に経口投与し、座位血圧の変化量を比較しています。
結果としては、セララ50mgとミネブロ2.5mgの非劣性が証明され、またミネブロ2.5mgに対する5mgの優越性が示されました。
つまり降圧効果に関しては、「セララ50mgとミネブロ2.5mgが同程度、ミネブロ5mgはそれよりも強い」という結果でした。
主な副作用としては、血清カリウム値上昇(4.1%)、血中尿酸増加(1.4%)、高尿酸血症 (1.0%)が報告されています。
また重大な副作用としては、高カリウム血症(1.7%)が報告されています。
頻度としては、第1、2世代と比較してミネブロが高いわけではありません。また、血清カリウム値が上昇するのは「腎臓でナトリウムの再吸収し、カリウムを放出する仕組みを抑制」という薬の特性上、MR受容体拮抗薬に共通してみられるものになります。
高血圧症ガイドライン2019におけるMR拮抗薬の位置付けを確認していきましょう。
主要薬剤として、カルシウム(Ca)拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬が挙げられています。
これらの薬剤は合併症がある場合には、その病気にあわせて優先する薬剤がありますが、ここでは割愛します。
特に優先する薬剤のない高血圧の場合には、
まずは (Step 1)①ARBかACE阻害薬②Ca拮抗薬③サイアザイド系利尿薬のいずれかを単剤
(①か②を選ぶことが多いかと思います)での治療を開始します。
①+②、①+③、②+③のいずれかの組み合わせで2剤を併用します。
まだそれでも改善しない場合には (Step 3)①+②+③ これら3剤を併用します。
3剤治療でも十分に血圧が下がらない場合は、治療抵抗性高血圧と呼ばれます。
①+②+③ これら3剤を併用します。
3剤に加えて、
つまり、MR拮抗薬は治療抵抗性高血圧の時に使用する第4の薬ということになります。
また、低レニン性高血圧、心不全合併の高血圧でも使用が推奨されています。
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