毎日ぐっすり眠れているのが当たり前、でない方は少なくありません。
厚労省の睡眠に関する調査では、5人に1人が自分は不眠がちだと感じ、10人に1人は長期間にわたって不眠に悩まされていると報告されています。
今回は不眠症についてまとめていきたいと思います。
日本人の睡眠時間は世界最短水準
経済協力開発機構(OECD)による平均睡眠時間の調査(Gender Data Portal 2019)によると、中国9時間2分、アメリカ8時間48分、スペイン8時間36分、フランス8時間33分、イギリス8時間28分と、多くの国で1日の平均睡眠時間が8時間を超える一方で、日本は7時間22分と最短水準でした。
労働時間が長いこと、通勤時間が長いことなどが関係していると考えられています。
不眠症の4つのタイプ
不眠症の状態は人によって様々ですが、よく見られる症状を大きく分けると以下の4つのタイプがあります。
これらの症状は1つだけでなく、複数の症状がある場合もあります。
それぞれの特徴についてみていきましょう。
① 寝入りが悪いタイプ(入眠障害)
ベッドや布団に入ってから眠るまでに長時間を要する状態です。睡眠障害の中で最も多いタイプです。
ベッドや布団に入ってから眠りに入るまでの時間には個人差があり、どの程度を苦痛と感じるかも人それぞれですが、寝つきが悪くなったことによって全体の睡眠時間が足りなくなってしまったり、その時間が苦痛に感じて困ったりしている場合には不眠症といえます。
一般的には、健康な人が消灯してから入眠するまでの時間は30分以内程度といわれています。
しかし、寝付くまでの時間はあくまで目安であり、「それによって本人が苦痛や支障を感じているかどうか」が重要です。
② 途中で起きてしまうタイプ(中途覚醒)
一度は寝たのに起きる予定の時刻までの間に覚醒してしまう状態をいいます。このタイプは加齢とともに増えていきます。
寝ている途中で目が覚めてしまうこと自体は誰でもあると思いますが、
などがある場合、中途覚醒を疑います。
③ 早く目が覚めてしまうタイプ(早朝覚醒)
早朝覚醒とは予定した起床時間よりも早く起きてしまい、もう一度寝るのが難しい状態をいいます。
「早朝」と表現をしていますが、「何時」という決まりはありません。
睡眠時間や生活リズムはそれぞれですので、早朝という時間に関わらず、「自分が望んでいる予定時間よりも1-2時間以上早く目が覚めてしまい困っている状態」を早朝覚醒といいます。
早朝覚醒はうつ病で認められることが多いため、精神症状を確認する必要があります。
④ 眠りが浅いタイプ(熟眠障害)
以前と同じくらい眠っているはずなのに、「全然疲れが取れていない」「十分な時間寝たはずなのに寝た気がしない」と感じる状態です。
睡眠には「時間」と「質」の2つの要素があり、「時間」よりも「質」の方が重要だといわれています。
十分に深く、質の高い睡眠が取れたときには短時間でも疲れが回復し、反対に質の低い眠りはどれだけ眠っても疲れが取れず、なかなか疲れが取れません。
不眠症の主な原因
不眠症の原因は、大きく分けると次のどれかに当てはまります。これらは英語の頭文字をとって「五つのP」と呼ばれています。
生理的な要因(Physiological)
生活習慣や睡眠時の環境に原因があるケースです。例えば夜間勤務の仕事で昼に眠る必要がある、周囲の騒音、明るすぎる、暑さや寒さ、枕やふとんがからだに合っていない、といったことです。
人間の睡眠リズムは、自律神経の切り替えによって調整されています。そこには光や温度、活動のオン・オフ、食事時間などの影響が深く関わるため、それらにメリハリが無い生活や不規則な生活を続けていると、不眠症の原因となることがあります。
また、加齢によっても、睡眠状態は悪化していきます。体内時計のリズムにはメラトニンというホルモンの働きが関係していることが知られていますが、10代をピークに加齢に伴って低下してしまいます。
日中に光を浴びるとメラトニンの分泌が高まることが知られています。 朝、散歩したり、通勤時は日の当たる道を歩いたりして、太陽光を15~30分浴びる、部屋の中でもカーテンを開けて太陽光をとりこむといったことが重要です。
心理的な要因(Psychological)
不安や心配事が気になって眠れない、楽しいイベントの前に気が高ぶり眠れないといったことは、誰しも経験があると思います。
適度な範囲であれば「精神的なストレス」は問題ありませんが、長く続いて不眠症になり、体や集中力・判断力などに不具合がおこり、普段の仕事や生活に支障が出てしまう場合には、何らかの対処が必要になります。
薬理学的な要因(Pharmacological)
飲食物の影響や薬の副作用が原因のケースです。カフェインが眠気を覚ますことはよく知られていますし、たばこは覚醒作用があり、アルコールも睡眠を妨げることがあります。ステロイド薬やインターフェロン、パーキンソン病のお薬などが、不眠症を起こすこともあります。
身体的な要因(Physical)
痛みやかゆみ、せき・息苦しさなど、なにかの病気による症状が続いていると寝付けません。
はっきりとした要因がある場合には、睡眠薬よりも、症状の原因となっている病気の治療が必要になります。
例としては、
などがあります。
精神的な要因(Psychiatric)
精神的な病気(神経症やうつ病、統合失調症など)は、しばしば不眠を伴います。精神的ストレスを抱えた方が不眠症によってますます心身が疲労し、精神疾患が発症することもあります。
精神疾患による不眠症は、生活習慣の改善などだけでは改善が難しいことも多く、眠れないことで余計に不安感や抑うつ感が悪化してしまうこともしばしばです。
通常の睡眠薬などでは効果が乏しいことも多く、原因となる精神疾患にあわせて、抗うつ剤や抗精神病薬などの適切な薬を使っていく必要があります。
不眠改善のために見直すべきポイント
不眠改善の第一歩は不眠の原因をはっきりさせ、対処することです。それに加えて安眠法を工夫することが効果的です。安眠のためのポイントをあげていきます。
就寝・起床時間を一定にする
睡眠覚醒は体内時計で調整されています。週末の夜ふかしや休日の寝坊、昼寝のしすぎは体内時計を乱すので注意が必要です。平日・週末にかかわらず同じ時刻に起床・就床する習慣を心がけることが重要です。
太陽の光を浴びる
体内時計には、光が大きく影響を与えます。体内時計にはメラトニンというホルモンが関係していますが、日中の光はメラトニンを分泌させ、夜間の光は抑えることが分かっています。
朝しっかりと太陽の光を浴び、夜はスマートフォンやテレビなどの光をできるだけ控えることで、体内時計の調子は整いやすくなります。
適度の運動をする
ほどよい肉体的疲労は心地よい眠りを生み出してくれます。運動は午前よりも午後に軽く汗ばむ程度の運動をするのがよいようです。激しすぎる運動は刺激になってかえって寝付きを悪くするため要注意です。短期間の集中的な運動よりも、負担にならない程度の有酸素運動を継続することが効果的です。
寝る前にリラックスタイムを
睡眠前に副交感神経を活発にさせることが良眠のコツです。40-42度程度のぬるま湯にゆっくり入り、好きな音楽をきいたりや読書をするなどして心身の緊張をほぐします。半身浴は心臓への負担も少なく、副交感神経を優位にさせ、睡眠の質を向上させてくれます。
寝酒は控えて
寝酒をすると寝付きが良くなるように思えますが、効果は短時間しか続きません。飲酒後は深い睡眠が減り、睡眠の質が下がります。さらに早く目が覚めやすくなり、寝たのに体が休まった感じがしないということになりかねません。
結果的に寝酒をすることによって不眠症が悪化してしまいますので、控えましょう。
快適な寝室づくりを
眠りやすい環境づくりも重要なポイントです。ベッド・布団・枕・照明などは自分に合ったものを選びましょう。温度や湿度にも注意が必要です。
寝室の環境の室温として許容されるのは夏季で28℃以下、冬季で10℃以上とされています。
温度に幅がありますので、季節と寝室に合わせた寝具と寝衣を選んで快適な温度に保つことが大切です。 また、湿度は40%-70%くらいに保つのがよいといわれています。
不眠症の薬物療法
不眠症の治療は、不眠症のタイプによって異なります。 睡眠薬を使うことが多いですが、症状によっては他の薬の使用が向いていたり、薬を使わない治療もあわせて行っていったりすることもあります。
睡眠薬については昔の悪いイメージが残っている方も少なくないようですが、睡眠薬は進化しており、安全性の高い色々なタイプの睡眠薬が発売されています。
ただ、睡眠薬はその特性が様々なので、症状や体質に合わせて上手に使い分けていくことが重要です。
生活習慣の改善にも関わらず、不眠の改善が得られない場合は、どんなお薬が適切か、まずは受診して相談してみるとよいでしょう。
© 2020 Inui pediatrics and internal medicine clinic