SGLT2阻害薬は、日本では2014年から使われている比較的新しい薬です。
尿から糖分(グルコース)を出すように促すことにより、血糖値を下げる働きがあります。
血糖値を下げるだけでなく、体重減少、血圧低下、糖尿病性腎症の予防作用、血管の病気や心不全リスクの低減作用など、さまざまな効果が報告されており、糖尿病だけでなく、心臓病や腎臓病の患者さんへの応用も期待されています(なので表題写真が虹色パラソル:わかりにくいですが)。
今回はSGLT2阻害薬についてお話ししていきたいと思います。
腎臓でろ過される原尿は1日約180Lありますが、その99%は再吸収され、体内を再度循環します。
残りの2L程度が尿として体外に排出されています。
原尿中に含まれるブドウ糖は、腎臓で原尿と同じように血液中にほとんど再吸収されるため、通常は尿糖として検出されません。
SGLT2阻害薬は、腎臓で糖分を再吸収しているSGLT2(sodium glucose cotransporter 2 : ナトリウム依存性グルコース輸送体担体)の働きを抑える事で、血液中の糖分を尿中へ排泄することを促進し、血糖値を下げるお薬です。
さらにSGLT2阻害薬には、血糖値を下げるだけでなく、様々な良い効果がある事が報告されています。
SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の患者さんの中でも、特に肥満の方、心疾患のある方、糖尿病性腎症のある方に、適しています。
SGLT(ナトリウム/ブドウ糖共役糖輸送隊)はタンパク質の1種で、体内でグルコース(ブドウ糖)やナトリウムといった栄養分を細胞内に取り込む役割を担っています。
SGLTは6種類あり、体内のさまざまな場所に存在していますが、SGLT2に限っては、腎臓の近位尿細管という場所に限定的に存在しているのが特徴です。
近位尿細管は、血液中から取り出して必要なものを体内に取り込み、不要なものを尿として排泄する働きをします。
この過程で、SGLT1とSGLT2は、グルコースを栄養分として細胞内に取り込む役割を担っています。近位尿細管で再吸収されるグルコースのうち、90%はSGLT2、残りの10%はSGLT1の働きによるものです。
SGLT2阻害薬は近尿細管での尿糖の血液中への再吸収を抑えることにより、原尿中の過剰な糖分を体内に再吸収しきれなくなり、大量の糖分を尿中に排泄するのを促し、血糖値を低下させます。
これまでの糖尿病治療薬の多くは膵臓に作用し、最終的にはインスリンを出すことで血糖コントロールを改善するものでした。
SGLT2阻害薬の大きな違いは、腎臓に作用する治療薬であるということです。膵臓を酷使することなく、インスリンを分泌する機能の程度も関係なく、腎臓の機能そのものへの負担はありません。
他の治療薬のメカニズムに影響を与えることもないため、組み合わせによってはより大きな効果を引き出すことが期待されています。
ちなみにSGLT2阻害薬を飲むと、尿糖の排泄量は、1日 60g-100g 増えます。
この糖分をカロリーに換算すると、1日 240kcal-400kcal(グルコース 1g = 4kcal)になり、角砂糖およそ20個-30個分に相当します。
国内で販売中のSGLT2阻害薬は、2020年1月現在6種類7剤あります。
一般名 | 商品名 | 配合剤製品名 (+DPP4阻害薬) |
国内発売時期 (下段は配合剤) |
---|---|---|---|
イプラグリフロジン | スーグラ | スージャヌ (+ジャヌビア) |
14年4月(18年5月) |
ダパグリフロジン | フォシーガ | なし | 14年5月 |
ルセオグリフロジン | ルセフィ | なし | 5月 |
トホグリフロジン | アプルウェイ | なし | 14年5月 |
カナグリフロジン | デベルザ/カナグル | カナリア (+テネリア) |
14年9月 (17年9月) |
エンパグリフロジン | ジャディアンス | トラディアンス (+トラゼンタ) |
15年2月 (18年11月) |
薬価は、通常用量だと、1日あたり約200円ですので、3割負担の場合、月に1800円程度になります。
各社の2018年度決算報告書で公開されていた情報をもとにランキングしてみました(アプルウェイ、デベルサは確認できませんでした)。
ランキング | 商品名 | 売上額(億円) |
---|---|---|
1 | スーグラ(スージャヌ含む) | 178(うちスージャヌ44) |
2 | ジャディアンス | 171 |
3 | フォシーガ | 145 |
4 | カナグル | 67 |
5 | ルセフィ | 56 |
スーグラは国内で最初に販売されたこともあり、最大シェアとなっていますが、以前よりもシェア率は下げています。
ジャディアンスは、心筋梗塞や心血管の病気による死亡を下げるという結果からSGLT2阻害薬が世界中から注目されるきっかけとなったEMPA-REG OUTCOME試験という研究で用いられた薬剤であることもありシェアを伸ばしていると思われます。
SGLT2阻害薬には、血糖を下げる働き以外にも、様々な効果があることが報告されています。
4-1. 体重減少作用
SGLT2阻害薬には、体重減少作用があることが報告されています。
作用機序の部分でも説明しましたが、SGLT2阻害薬を内服すると、1日約70gの糖が尿から排出され、カロリー換算で約300kcalの喪失となることが1つの理由と考えられています。
薬剤によって報告は異なるものの、2-3kg程度の体重減少がみられた、という報告が散見されます。
ただし、体重の減りは時間が経つにつれて弱まり、また、脂肪と同程度の割合で筋肉も減少していることもわかっています。
SGLT2阻害薬により高血糖は是正されても、細胞内の糖利用は改善されないために生体は相対的な飢餓状態となり、脂肪組織の脂肪酸分解は増加し、同時に筋肉を分解しエネルギーを産生していると考えられています。
筋肉量がへると筋肉での糖の消費が減ることで血糖コントロールには悪い影響を与え、また、基礎代謝が減ることでかえって太りやすい、場合によってはリバウンドのような現象が起きてしまうリスクもあります。
一般的な糖質制限でのダイエットの時もそうですが、筋肉量が減らないように、筋力トレーニングもあわせて行うなどの工夫が必要かもしれません。
4-2. 降圧作用
SGLT2阻害薬の種類にかかわらず収縮期血圧で3-4mmHg、拡張期血圧で1-2mmHgの降圧効果が報告されており、降圧作用は低用量のサイアザイド系利尿薬に匹敵します。
血圧の低下する機序は完全にはわかっていませんが、一つの機序として、ナトリウムの利尿作用があると考えられています。
4-3. 腎保護作用
糖尿病の3大合併症として糖尿病性腎症がありますが、SGLT2阻害薬には糖尿病性腎症の進行を抑える効果があることが報告されています。
機序としては、腎臓での酸化ストレスの改善、腎臓内の糸球体への過剰な負担の軽減、腎臓内の酸素状態の改善など、複合的な作用が考えられていますが、まだ完全にはわかっていません。
どの程度の腎保護作用が、どの段階の腎障害に得られるか、などに関しては今まさに多くの研究がなされている段階ではありますが、大きな期待がよせられています。
4-4. 心疾患リスク低減作用
世界的な大規模臨床研究で心血管イベントのリスクを抑制する効果が報告されたことで注目されています。
例えば、心血管疾患のある2型糖尿病患者さんに対して、ジャディアンスを投与したところ、全死亡、心血管疾患による死亡率が低く、心不全による入院の抑制に効果があったことが報告されています。
血圧を下げる作用や、利尿作用、腎臓の糸球体への負担を減らす作用など様々な作用が相まって心保護作用も得られると考えられており、心臓病の治療薬としても期待されています。
SGLT2阻害薬は従来の作用機序とは異なる糖尿病治療薬であるため、低血糖など糖尿病治療薬全般に共通するものに加えて、性器・尿路感染症などの特有な副作用も報告されています。
なお、インスリンに依存ぜず、過剰な尿糖の再吸収を抑えて、尿中への排泄量を増やす、という薬の特性上、他の薬に比べて、低血糖を起こしにくいと言われています。
副作用に関しての注意点は、日本糖尿病学会から「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(最終改訂2019年8月6日)」として公開されています。
5-1. 頻尿
尿糖が増えると、尿量が増えるので、頻尿になる方もいますが、全く変わらないという方もおり、個人差が多い印象です。
5-2. 性器・尿路感染症
薬の作用で尿中に最近の栄養となる糖が多く排泄されるため、リスクが上がることがわかっています。女性での報告が多いものの、男性でも報告されています。
排尿時の痛みなどを認めたら、主治医と相談しましょう。
5-3. 脱水
糖分が尿中に多く排泄されることにより、尿の浸透圧が上がり、利尿薬のようなはたらきをします。
そのため、風邪で熱が出たり水分がとれなかったりする時や、夏期など汗を多く各時期には脱水に注意する必要があります。
最悪の場合、脳梗塞の原因となることもありますので、喉が渇いたり、汗をたくさんかいたりしたときには適度な水分補給を心がける必要があります。
5-4. 正常血糖ケトアシドーシス
通常の糖尿病ケトアシドーシスは、インスリン作用不足により高血糖とケトン体(体内で脂肪が変化して作られる物質)の増加を起こし、ケトアシドーシスという危険な病気を起こします。
SGLT2阻害薬を飲んでいると高血糖を起こさなくても、このケトアシドーシスが起こるリスクが報告されています。
特に脱水や、過度の糖質制限がリスクとして報告されているため注意が必要です。
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