新しい超速効型インスリンであるフィアスプが2020年2月7日にルムジェブが2020年6月17日に発売されました。
新薬といっても全く新しい薬というわけではなく、従来ある超速効型インスリン製剤の添加剤を調整したものです。添加剤でインスリンの吸収を速くすることにより、いままでの超速効型インスリンよりも速く効くように改良されています。
新薬には処方日数の制限(14日まで)がありますが、フィアスプは2020年12月1日より長期処方可能となっており、ルムジェブも2021年6月1日から長期処方可能となる予定です。
今回は、最速の超速効型インスリン:フィアスプとルムジェブの特徴、違いについてみていきたいと思います。
食事と血糖変化とインスリン
上の図のように、食事をとると血糖値が上がります。健康な方では、自前のインスリンが分泌されることで(これを追加分泌といいます)食後の高血糖は抑えられ、速やかに正常範囲内に下がります。
しかし、糖尿病の方では自前のインスリンの分泌が弱まっていたり、十分な働きが得られなくなったりしているために、十分な追加分泌がなされず、食後に大きく血糖が上がってしまいます。
そこで、本来からだが持っている追加分泌の作用を再現すべく、食事前に作用発現時間の早いインスリンを使うことで食後血糖の上昇をコントロールする薬剤が開発されました。このタイプのインスリンを「超速効型」と呼んでいます。
従来の超速効型インスリンでは不十分な場合があった
これまでの超速効型インスリンにはヒューマログ、ノボラピッド(2001年承認)、アピドラ(2009年承認)があります。
超速効型インスリンは食事直前での注射が基本ですが、食事の内容、食べる速さ、消化の速さになどよっては、インスリンの効果発現が血糖上昇に追い付かないことがあります。
つまり、従来の超速効型インスリン製剤では、食後の速やかなインスリン分泌を完全には再現できず、十分な血糖コントロールが得られない場合があったのです。
従来の超速効型インスリンの添加剤を変えて効果発現を早めた
フィアスプとルムジェブは、インスリン製剤の添加剤を調整してインスリンの吸収を速くすることにより、現在の超速効型インスリンよりも速く効くように改良されています。
インスリンの成分としては従来の超速効型と同じで、添加剤だけが変更されています。
ノボラピッドに添加剤を追加(ニコチン酸アミド:ビタミンB3とアルギニン等を添加することで、作用の発現を早くしている)したインスリンが、フィアスプです。
ニコチン酸アミドの働きにより、皮下投与後速やかにインスリンを多量体から単量体に解離し(インスリンはインスリン同士で合体して塊を作りやすい特徴があります)、投与部位において局所的な一過性の血液灌流量が増加。インスリンの初期吸収が速くなると考えられています。
ノボラピッドとの混同を避けるため、fast(早い)-aspart(アスパルト:ノボラピッドの一般名)からフィアスプと命名されています。
また、ヒューマログの添加剤を変更した(トレプロスチニルとクエン酸)インスリンが、ルムジェブです。
プロスタグランジンI2誘導体であるトレプロスチニルにより注射部位の局所血管拡張作用をもたらし、クエン酸により血管透過性が亢進することで、作用発現を早めていると考えられています。
なお、「添加剤の量はごく少量のため、全身作用は示さない」と添付文書に明記されています。
どれくらい速くなっているか?
インスリン製剤の添加によってフィアスプとルムジェブはどの程度早く効果が発現(血中濃度が上昇)しているのでしょうか?
上の図のように、フィアスプはノボラピッドよりも速く血中濃度が上昇します。
他のデータも参照すると、効果が出るまでの速度はノボラピッドより5分-10分程度早いようです。
次にルムジェブをみていきましょう。
上図のように、ルムジェブはヒューマログよりも速く血中濃度が上昇しています。
1型糖尿病患者さん33人を対象にルムジェブまたはヒューマログを食事開始時に単回皮下投与した検討では、血清中インスリンリスプロ濃度が最初に検出可能となるまでの時間は、平均でルムジェブ0.93分、ヒューマログ4.4分でした(海外データ:添付文書より)。
日本人を対象とした研究では、ルムジェブはヒューマログよりも効果発現が6.4分速く、効果が最大になるまでの時間は19.7分速い、という報告もありました(J Diabetes Investig 2020 May;11(3):672-680)。
フィアスプとルムジェブではどっちが速く効く?
フィアスプとルムジェブが従来の超速効型注射薬であるノボラピッドとヒューマログに比べて、速く効くことはわかりましたが、フィアスプとルムジェブではどっちが速く効くのでしょうか?
この検討を行った論文をご紹介したいと思います(Diebetes Obes Metab. 2020 Oct;22(10):1789-1798. Tim Heise et al)。
1年以上の罹病歴のある68人の1型糖尿病患者さんを対象とした、ランダム化、2重盲検、4剤4期のクロスオーバー比較試験です。比較対照として12人の非糖尿病者さんも試験に参加しています。
4剤とは、①ルムジェブ➁フィアスプ③ヒューマログ④ノボラピッドです。被検者はテストミール(試験食)を食べ、同じ単位の超速効型インスリン①~④をそれぞれ1回ずつ注射して、データ収集が行われました。
ちなみに試験食は、エンシュアプラスという経口栄養食で、通常の食事とは異なる点は注意が必要です。通常は流動食として使用されています。1本375kcalでこれを2本飲んだと思われます。ものすごく甘くて濃い味の豆乳、みたいな味です。
ルムジェブの方がフィアスプよりも速く効いた
この図が結果になりますが、赤色の線=ルムジェブが投与後最も速く血中濃度が上がっていることがわかります。
もう少し細かく比較しているデータでも(0-15分)、(0-30分)でルムジェブはフィアスプに対して有意差を持ってインスリン早期暴露があった(≒はやく聞効いた)ことが示されていました。
患者さんごとにあった薬剤選択が重要
昨年から従来の超速効型インスリンよりもさらに速く血糖降下作用が得られる“超”超速効型(なんか小学生っぽい言い方ですが…)ともいうべきインスリンであるフィアスプとルムジェブについてまとめてみました。
血糖降下作用が急峻に現れるという特徴がある反面、人によっては一時的に血糖が下がりすぎてしまい、かえってコントロールが悪化してしまう可能性もあります。
新たなインスリンの有用性は今後の報告を待つ必要がありますが、ライフスタイルや食生活など、患者さんごとにあわせた薬剤選択が重要でしょう。
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