高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインに追補版登場。 何が追加になった?|高崎市 乾小児科内科医院|アレルギー科・循環器内科(心臓血管内科)

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高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインに追補版登場。
何が追加になった?

2022.05.20

先日、日本痛風・尿酸核酸学会より「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」に2022年追補版が発行されました。

ややマニアックな内容ではありますが、今回は追補版で追加になった内容についてまとめてみたいと思います。

 

大幅改定は8年ペース?

今までの発行ペースを見返してみますと、

第1版が2002年発行、
第2版が2010年に改訂・発行、
第3版が2018年に改訂・発行となっています。

このペースですと第4版の改訂・発行は2026年頃と予想されますが、今回大幅改訂ではないものの、治療指針に影響が出る変更があったため追補版が発行されたものと思われます。

 

追補版はユリス(ドチヌラド)に対応するため

今回の追補版は端的に言って、ユリスの扱いに関してのアップデートになります。実際巻頭にもそう書いてあります(2020年に米国リウマチ学会の痛風診療ガイドラインが出たのでこれにも対応するためとも書いてありますが)。

余談ですが、2012年にフェブリク(フェブキソスタット)が登場した時にも追補版が出ています。

 

一番修正が入ったのは「尿酸降下薬の種類と選択」の項目

当たり前といえば当たり前ですが、治療薬のラインナップの中にユリスが入ったことで第3版から大幅改定がなされています。

第3版では尿酸降下薬の種類を尿酸生成抑制薬、尿酸排泄促進薬、尿酸分解酵素薬に分類し、概説していました。

実臨床で広く使われているのは前2者で、要するに「尿酸を作りすぎないようにする薬」と「尿酸の体外排泄を促す薬」です。

これを追補版ではより詳細に解説しています。追補版の内容を踏まえてみていきたいと思います。

 

尿酸生成抑制薬

尿酸生成抑制薬は、プリン型キサンチン酸化還元酵素阻害薬、非プリン型キサンチン酸化還元酵素阻害薬に大別されます。

 

(1) プリン型キサンチン酸化還元酵素阻害薬

アロプリノール(一般名ですが後発品名でも目にします)、ザイロリック、アロシトールがこの系統の薬剤です。

構造式の中にプリン体異性骨格をもつためプリン型という名称がついています。

キサンチン酸化還元酵素は長いので英語名の頭文字からXOR(xanthine oxidoreductase)と略し、これを使ってプリン型XOR阻害薬とも呼ばれます。

尿酸値が高い患者さんの中には「尿酸がたくさん作られ過ぎている人」がいます。正常な人よりも尿酸が過剰に作られているため、尿酸値が高くなっています。

そこで、この「尿酸の作られ過ぎている状態」を改善することで尿酸値の低下を図ります。具体的には、尿酸が新しく作られる過程を阻害することで尿酸の産生を抑制します。

プリン体から尿酸が作られる過程をもう少し詳しくみてみると、キサンチンオキシダーゼ(XO)という酵素が関わっていることがわかります。

このキサンチンオキシダーゼ(XO)を阻害し、プリン体から尿酸の合成を抑える薬がアロプリノールです。

もう少し詳しく説明しますと、アロプリノールはヒポキサンチンに似た構造を持つことでXORの活性中心に結合し、反応を受けオキシプリノールを生成します。オキシプリノールの一部がXORに共有結合して、XOR活性を阻害することで尿酸生成を阻害します。

「アロプリノールはヒポキサンチンのそっくりさんで、反応することで尿酸生成を邪魔する物質を作る」ということですね。

アロプリノールはプリン体骨格をもつため、他の核酸代謝酵素にも影響を与えてしまうという側面があります。

 

(2) 非プリン型キサンチン酸化酵素還元酵素阻害薬

6月にジェネリックの登場が予想されているフェブリク(フェブキソスタット)とトピロリック(トピロキソスタット)がこの系統になります。

これらは「非」というだけあってプリン体骨格を持ちません。アロプリノールの持つプリン体骨格によるデメリットを克服するために登場した薬剤といってもいいでしょう。

キサンチンオキシダーゼにはヒポキサンチンやキサンチンが結合するポケットがあるのですが、トピロキソスタットやフェブキソスタットはこのポケットに選択的に結合します。

フェブキソスタットはXORの活性中心付近に結合し、基質となるキサンチンの結合をブロックし、尿酸生成を阻害しています。

トピロキソスタットは、自身が酵素により水酸化されながら中間体を維持し、XORの酵素活性中心を形で結合し、尿酸生成を阻害しています。

 

尿酸排泄促進薬

尿酸排泄促進薬は、主に腎の尿酸トランスポーターを介して尿細管での尿酸の再吸収を抑えることで尿酸排泄を促す薬剤ですが、選択性の違いにより二分されています。

 

(1) 非選択的尿酸再吸収阻害薬

ユリノーム(ベンズブロマロン)、ニューロタン(ロサルタン)、ベネシッド(プロベネシド)など従来の尿酸再吸収阻害薬がこれに該当します。

主として尿細管に分布し、尿酸再吸収に関与しているトランスポーターである尿酸トランスポーター1(URAT1)を阻害し、尿酸排泄を促進させます。

ただし、その選択性は十分とはいえず、劇症肝炎といった重篤な副作用やCYP2C9阻害作用を持つことによる薬剤相互作用などが問題となっていました。

 

(2) 選択的尿酸再吸収阻害薬

今回の追補版の主役、ユリス(ドチヌラド)がこれに該当します。

URAT1阻害作用が強く、他の尿酸トランスポーターに対する阻害作用が弱いことが特徴です。

ユリスに関しては以前の記事で詳しく解説していますのでよかったらこちらの記事もみてください。

 

ユリスの登場で高尿酸血症・痛風治療は変わるか

ここからはガイドライン改定を受けての私見になります。

今までは

・尿酸排泄促進薬は、頻度は低いものの重篤な副作用が起きる可能性があること

・尿酸値が高いといっても実際には尿酸排泄障害型、尿酸産生過剰型、混合型と分けられるものの、病型に関わらず、十分に尿酸値は下がるという報告もあり病型分類は重要視されてきてきませんでした。

病型は産生過剰型が大半、というわけでもないのに、実際処方シェアの9割以上をフェブリクとアロプリノールが占めていることからもわかります。

しかし、ユリスが登場したことで状況は変わるかもしれません。

現場ではフェブリクで尿酸値がなかなか下がらない患者さんの薬をユリスに変えてみたところ劇的に尿酸値が下がったり、病型分類に合わせて処方することで少量の薬剤で良好な効果が得られたり、といったことを経験します。

まだ登場して歴史の浅い薬剤なのでガイドラインに反映されるのはまだ先になりますが、治療の選択肢の幅が広がったのは間違いないと思います。

*Goldfarb et al. J Reumatol 38: 1385-89, 2011

 

© Inui pediatrics and internal medicine clinic

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