心不全治療の新薬:エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の効果と副作用|高崎市 乾小児科内科医院|アレルギー科・循環器内科(心臓血管内科)

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心不全治療の新薬:エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の効果と副作用

2020.08.28

心不全治療の新薬:エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の効果と副作用

 
 

8月26日に慢性心不全に対する新薬エンレスト(サクビトリルバルサルタン)が発売となりました。

エンレストは既に海外では承認・販売されており、

  • ・ネプリライシン阻害薬のサクビトリル(日本未発売)
  • ・ARBのディオバン(バルサルタン)

を1:1のモル比で含んだ薬剤です。

欧米のガイドラインでは数年前から推奨されていましたが、日本でも使用可能となりました。

今回は、心不全治療の新薬:エンレスト(サクビトリルバルサルタン)についてまとめていきたいと思います。

 

心不全とは

心不全とは、心臓の障害によって、心臓のポンプ機能が低下して全身へ十分な血液を送り出すことができなくなった状態のことです。

加齢に伴う機能低下や、弁膜症、お薬の副作用や遺伝性の病気など様々な原因から心不全は起こります。

全身への血液循環が十分に行えなくなることで全身にむくみが出たり、肺に血液がたまることで息切れを起こしたりします。

 

左室駆出率による心不全の分類

心臓のポンプとしての働きの大部分は左心室が担当しているため、左心室の機能により心不全の程度を分類する方法があります。

左室駆出率(LVEF: Left Ventricular Ejection Fraction)と呼ばれ、心拍ごとに心臓が放出する血液量(駆出量)を拡張期の左心室容量で割って算出されます。

日本循環器学会の出している「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年度改訂版)」では、LVEFによって以下のように分類されています。

定義 LVEF
LVEFの低下した心不全(HFrEF) 40%未満
LVEFの保たれた心不全(HFpEF) 50%以上
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF) 40%以上50%未満
LVEFが改善した心不全(HFpEF improved) 40%以上

HFrEF: heart failure with reduced ejection fraction

HFpEF: heart failure with preserved ejection fraction

HFmrEF: heart failure with midrange ejection fraction

HFpEF improved: heart failure with preserved ejection fraction, improved

当初はLVEFが保たれているか(HFpEF)、保たれていないか(HFrEF)の大きく2つに分類されていましたが、現在は、もう少し細かく現在は4つに分類されています。

今回お話ししているエンレストは、LVEFが低下したHFrEFに対して効果が認められているお薬になります。

ただし、日本では適応上、LVEFでの区別なく慢性心不全に対して使用可能となっています。なお、海外ではHFrEFのみに使用可能です。

 

心不全の治療薬

心不全の治療は、 ガイドライン上、HFrEF、HFmrEF、HFpEFのそれぞれで内容が異なりますが、体液量を減らしたり、心臓への過剰な刺激を抑えたりすることで心臓への負荷を軽減させる治療が基本となります。

HFrEFの場合、

  • ・ACE阻害薬/ARB
  • ・β遮断薬
  • ・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
  • ・利尿薬

が中心的な薬剤で、単剤もしくは適宜併用した治療が行われます。

 

エンレストの作用機序

エンレストは、

  • ① ネプリライシン阻害薬であるサクビトリル
  • ② ARBであるバルサルタン

の2つの成分からなり、

ARNI: Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor(アーニィ)と呼ばれる新しいタイプの治療薬です。

エンレストは投与後、速やかにサクビトリルとバルサルタンに分離されます。

それぞれの働きについてみていきましょう。

 

サクビトリルのはたらき

体内には利尿作用や血管拡張作用を有するホルモンとしてナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNPなど)が存在しますが、ネプリライシンという酵素によって分解されてしまいます。

サクビトリルは体内で活性体に変換され、ネプリライシンを阻害します。その結果、体内のナトリウム利尿ペプチドの量が増加し、利尿作用や血管拡張作用によって体液量が減少して心負荷を軽減します。

 

バルサルタンのはたらき

バルサルタンはARBに分類される薬剤です。レニンアンギオテンシン(RA)系は、血圧や細胞外容量の調節に関わるホルモン系の総称で、血液量の保持と、血圧上昇作用により血液の循環調節機構を形成しています。

ARBは、アンジオテンシンⅡが作用するAT1受容体を遮断することで血管拡張作用、血圧低下作用を示します。

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2つの成分が配合されている理由

エンレストは、2つの薬の成分が配合されているいわゆる配合剤とは違い、2つの成分があって初めて薬として成立しています。

実は、ネプリライシン阻害薬は単独では効果が得られません。

ネプリライシンはアンジオテンシンIIも分解するため、ネプリライシンだけを阻害するとRA系が亢進してしまい、血圧上昇や血管収縮などを引き起こすからです。

そこで、アンジオテンシンIIが結合するAT1受容体に対する拮抗作用を示すARBを併用することで、RA系を抑制してネプリライシン阻害薬による効果を発揮させているのです。

 

重症心不全で従来の薬以上の効果

エンレストの効果が脚光を浴びるきっかけとなった研究にPARADIGM-HF試験があります。

この研究は、HFrEF(LVEFの低下した心不全)の患者さんを対象に、標準治療に加えて、エンレスト(1日2回投与)を使用する群と、ACE阻害薬のエナラプリル(1日2回投与)を使用する群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験でした。

エンレストは、エナラプリルと比較して、主要評価項目である心血管死亡・心不全入院(複合エンドポイント)を20%抑制しました。

また心血管死亡、心不全入院、全死亡のいずれについても、20%前後の有意なリスク低下が認められました。

この結果をもとに、欧州心臓病学会(ESC)が2016年に発表した心不全ガイドラインでは、それぞれ最大忍容用量のRA系阻害薬(ACE阻害薬またはARB)、β遮断薬、MR拮抗薬を併用してもLVEFが35%以下の患者さんに対して、RA系阻害薬からARNIに変更することをクラスI(最高レベル)で推奨しています。

 

用法・用量

通常、成人にはサクビトリルバルサルタンナトリウムとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与します。

忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量します。

1回投与量は50mg、100mgまたは200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与です。

 

エンレストの剤形と薬価

エンレストのお薬としての特徴についてみていきましょう。

エンレストにはジェネリックは発売されておらず、先発品のみとなります。現在エンレストは、

  • ・50mg錠
  • ・100mg錠
  • ・200mg錠

の3剤形となります。

収載時(2020年8月26日)の薬価は、

  • ・50mg錠:65.70円
  • ・100mg錠:115.20円
  • ・200mg錠:201.90円

になります。

 

副作用

添付文書の情報によれば、重要な副作用として頻度の高い順に

  • ・低血圧(10.4%)
  • ・高カリウム血症(4.7%)
  • ・腎機能障害(2.9%)
  • ・腎不全(0.8%)
  • ・血管浮腫(0.2%)
  • ・失神(0.2%)
  • ・間質性肺炎(0.1%未満)
  • ・ショック(0.1%未満)

などが挙げられています。

その他の副作用としては、0.3%以上の頻度で

  • ・浮動性めまい
  • ・起立性低血圧
  • ・咳嗽

が挙げられています。

 

最後に

高齢化社会に伴い、年々増加している心不全。中でもEFの低下したHFpEFは、しばしば治療に難渋します。

そんな中、エンレストは標準治療薬のACE阻害薬を上回る有効性を初めて示した薬剤です。

日本人を対象に行われたPARALLEL-HF試験では、ACE阻害薬エナラプリルを投与した対照群に比べて有意差を示すことができず、期待に反する結果となってしまいましたが、今後のさらなるエビデンスの蓄積に期待したいと思います。

 

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