内科医のできるまで(専門医編)|高崎市 乾小児科内科医院|アレルギー科・循環器内科(心臓血管内科)

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内科医のできるまで(専門医編)

2020.03.12

内科医のできるまで(専門医編)

 
 

軽く説明するつもりが、ここまで随分長々と書いてしまい3編目になってしまいました。医学生編、研修医編を読んでいない方はまずそちらからご覧ください。今回で最後にしようと思い文章を書き始めたのですが、またしてもまとまりきらなかったので次回で完結予定とします。

 
1. 専門医までの道のり

内科医のできるまで(専門医編)

2年間の研修医生活を終えると、ほとんどの医師は自分の専門領域を決め、専門科としてのトレーニングを受けることになります。

専門家としてのトレーニングを積むこと、と専門医資格の取得は必ずしもイコールではありませんが、1つの目標になることは間違いなく、厚労省が研修医に行った調査では、研修終了後に専門医取得を希望する医師は92.6%と大半でした。

私がトレーニングを積んだ時代と2018年度以降で大きく制度が変わっているため、説明が非常に難しくなっているのですが、整理しながら順を追って説明していきたいと思います。

 

1-1. はじめに

ここからは内科の専門領域(循環器、消化器、神経、呼吸器、内分泌・代謝、感染症、血液、膠原病、アレルギーなど)での専門医を目指すことを前提としたキャリアに関して説明していきます。

専門医資格の取得は、その領域の専門家として診療を行っていく上では必ずしも必須ではないのが実情です。

総合病院で部長などの役職についているような先生であれば大半は(それでも全員ではないと思います)取得していますが、キャリアは長くても専門資格を取得していない先生は一定数います。

 

1-2. 専門医資格を取っても待遇は変わらないことが多い

アメリカと違い、少なくとも日本においては多くの病院では専門資格を取得したからといって給料が上がることもなく、クリニックを開業した場合に診療科を掲載する(標榜科といいます)にあたって制限があるわけでもありません。

さらに専門医資格は取得した後は、だいたい5年ごとに更新があり、資格を維持するために一定数の学会に参加し、学会によってはレポートを提出し、学会の参加、学会への所属、専門資格の更新は全て数万円程度(学会にもよりますが)の費用がかかり、勤務医の場合、大半の医師が費用は個人持ちです(開業医になると経費で落とせますが)。

そのため、「専門資格を取得することに意味はない」と考え、専門領域に関する豊富な技術と知識は持っているものの、専門資格を取得していない医師、というのも一定数存在します。

それでもなぜ多くの医師が専門医資格の取得を目指すかといえば、「専門領域の一般的なトレーニングを受け、専門家としての一定水準の経験・知識を持っている」という客観的な指標になるからです。

例えば職場を移ることになった場合。専門医資格の有無によって待遇に違いがあったり、求人条件に〇〇専門医とあったりすることはあります。

面識のない医師同士でやりとりをする際には、専門資格の有無で「本物の」専門家かどうか判断する1つの指標にし、仕事を依頼するかどうか決定する場合もあります。

ほとんどの学会は、それぞれの学会ホームページで専門医名簿を公開していますし(誰でも閲覧できます)、地域の専門医がすぐにわかる医療機関検索サイトは、おそらくこれをもとに作成されています。

ただし、検索サイトの専門医登録は自己申告でも可能で登録にあたっては、申請医療機関のホームページの掲載情報をもとにしていることも多く、専門医認定証の提出を求められることは私の知る限り皆無(手間と管理の問題と思われます)ですので、信憑性は学会ホームページの名簿の方が高いと思います。

 

2. 従来の制度について

内科医のできるまで(専門医編)

それではまず2017年度までのシステムについてお話ししていきたいと思います。

 

2-1.日本内科学会認定内科認定医の取得

内科医のできるまで(専門医編)

専門医資格取得までの流れをまとめてみました。上に示した通り、専門医資格を取るためにはまず、日本内科学会(内科医の元締めの団体です)による「認定内科医」という資格を取得する必要があります。

そのため認定内科医は、「内科の登竜門」といった感じの資格になります。

最低1年間の内科研修を行い、学会等でのプレゼンテーション実績、救急蘇生基礎講習会の受講、規定の病気に関して診療を行った証明、大量のレポート提出、等を経て、年1回ある認定医試験の受験資格を得ることができます。

試験ではまず、上記書類を用いた1次審査が行われます。レポート内容によっては不合格になることもあります。書類提出期限は2月末と1年の中でも入院が増え、忙しい時期になります。

多忙な仕事の合間をぬっての作業になるので書類提出期限前になると認定医受験を目指す医師は遅くまでレポート作成に追われます。

書類提出にあたっては職場の責任者(医局だったら教授、民間病院だったら所属している部門の部長)に署名、捺印をもらう必要があり、仮に書類審査で不合格となった場合には、責任者にも連絡が行くため、ちょっと緊張します。

書類審査に合格すると、筆記試験があります。試験会場は例年東京近郊のみ(今年は東京オリンピックの影響で大阪会場となっています)なので、遠方受験者は前泊→スーツケースを片手に試験会場に向かいます。

会場は大きく、受験生は全員内科医という独特の空間。知らない人ばかりの会場ですがそこは狭い医学界。学生時代にどこかで見かけた顔や卒業以来見かけていなかった同級生や先輩、受験時期によっては後輩、を見かけることもあります。

1日がかりで国家試験以来となる筆記試験を自分の専門領域以外あまり自信を持てない難問に頭を悩ませながら、なんとか乗り切ります。

内科医のできるまで(専門医編)

無事合格すると、数ヶ月後にA3サイズの巨大な資格証が送られてきます。

同時期に受験していた職場の同僚の書類受けに巨大な封筒が届いていなかったりすると、気まずい空気が流れたりします。

 

2-2. 専門医資格を取得するメリット

専門医資格の受験資格は、「認定医の取得から3年以上の内科医としての診療実績」が一般的です(全部の学会は確認できていませんが)。

つまり、年に1回しかない認定医試験に合格できなかったり、事情により受験できなかったりした場合には、そのぶん専門医資格取得までの期間も延びることになります。

とはいえ、

  • ・まだまだ下積みの最中なので基本的に忙しい
  • ・専門医資格を早く取ったからといって最短で取れなかった同期にちょっと自慢できるぐらいで、仕事に直接的な影響はほぼない
  • ・受験に必要なレポートの作成や講習、学会発表なども大変
  • ・結婚、出産、育児などのライフイベントと重なることもしばしば

なため、最短での専門医資格取得に心血を注いでいる医師はあまり多くなく、「そのうち取る必要がある、取ろうとは思っているが、今年は諦めようかなぁ」と先延ばしにしたままになっているベテラン医師もいたりする訳です。

逆に医療機関側としては、専門医がいることが

  • ・若手の研修トレーニング施設としての認定要件にある(場合によっては複数名の専門医の在籍が必要)
  • ・内外に向けての専門性のアピールになる(専門医〇〇名在籍!といった)

という側面もあります。

大規模病院や急性機治療を積極的に行っているような病院などでの中途採用の際などには有利に働くことはあります。

 

2-3. 「よき医師になりたい」だけなのに

ここまでお話しした通り、専門医資格取得のメリットは多少あるものの、実務にあたってのメリットはそこまで大きくありません。

実際専門医資格の取得とメリットに関する民間が行ったアンケートでは7割以上が「自己研鑽のため」と答えています。

つまり、多くの医師は出世や専門資格の取得もさることながら
「プロフェッショナルとしてのしっかりとした知識、スキルの習得」
を最も重要に考えているのです。

ドラマのように多くの部下を従えて病棟を闊歩したいのではなく、
「目の前で病気に苦しむ患者さんを助けることのできる医師になりたい」
と大半の医師が思っていて、そのための1つの通過点として専門医資格がある、
ということになります。

 

2-4. 専門医資格の取得はけっこう大変

専門医試験の受験資格として、専門領域での3年以上のトレーニング(実務)というものがあります。

どこかの病院にただ籍を置いていればいいのではありません。

専門領域のトレーニング施設として学会から認められた医療機関(例えば循環器専門医であれば、循環器系病床が常時30床以上+循環器専門医2名以上の常勤が研修施設としての要件)、つまり専門領域で一定以上の規模のある病院に在籍する必要があります。

もちろん女性に限った話ではないのですが、出産、育児をしながら、こういった病院でフルタイム勤務していくのはけっこう大変です(時間外に緊急の電話相談、救急治療の時間外当番、当直が月に4、5回など:この辺りは病院によりますが)。

以前よりも労働環境は改善しつつあるとはいえ、一般社会よりもまだまだ環境が整っていない面も多いのが実情です。

筆記試験もただ受ければ誰でも受かるといったものではなく、専門領域にもよりますが、問題集や参考書などを使って帰宅後や休日などに長期にわたり勉強(人によっては試験対策のためにグループで集まって定期的に勉強会を開催)し、合格できるものになります。

 

2-5. 資格の維持もけっこう大変

はじめに少し触れましたが、専門医資格は取るのも一苦労、取ったあと維持するのも一苦労です。
5年ごとに更新があり、更新のためには

  • ・講習の受講
  • ・学会参加などによる更新ポイント取得
  • ・年会費、更新費用の支払い

が必要になります。学会は規模にもよりますが、ポイント対象になるような学会は大都市で開催されることが多く、遠方から場合によっては仕事を休んで泊まりがけで参加することになります。

職場にもよりますが、一般企業と違い出張費が出ないことが大半です。
学会参加のための費用、交通費、宿泊費などを毎回全額支給ということは少なく、交通費のみ年何回かまで支給、というのが一般的です(発表者のみ支給で参加のみでは支給されないというケースも多々あります)。

開業医であればこれらの費用は経費として計上できますが、学会参加のために休診にした場合、当然その分の収入は得られません(もしくは知り合いの医師などに給料を支払って代診の依頼をする)。

休日開催の会への参加の場合には、プライベートの時間を削って参加することになります。

「専門家を名乗るのであれば、講習や学会で新しい知識を学びにいくのは当然だ」との意見もあると思いますが、前述の通り、そこまで強いメリットのない資格維持のために少なくない時間とお金のコストをかけることに疑問を感じる医師が少なくないのも実情です。

 

3. 新制度について

内科医のできるまで(専門医編)

さて、ここからは新制度についてお話ししていきたいと思います。

 

3-1 新制度に変更となった経緯

2018年度から新制度が始まりました。旧制度にあった登竜門資格「認定内科医」が2020年7月の試験をもって廃止となります(すでに資格をもっている人は更新可能)。

内科医のできるまで(専門医編)

こちらの図は日本内科学会が公開している説明です。
ここでいうサブスペシャルティ専門医とは各専門領域の専門医資格のことを言います。

いままで学会ごとに独自の基準で専門医を認定しており、専門医の質のばらつきが問題になったので、日本専門医訊こうという第三者機関を設立し取りまとめることになりました。

ここに医師の都市部への偏在化問題もシステム変更に伴い解決しようとする思惑も重なり、研修病院の枠を地域ごとに定数化、などの仕組みも加えられました。

従来は「認定医」取得後に、各専門領域の専門医資格を取得、という流れでしたが、新制度では「内科専門医」という新資格の取得が、各専門領域の専門医資格のための条件(同一年でも受験可能だが、内科専門医に先に合格する必要がある)
となりました。

内科医のできるまで(専門医編)

こちらは厚生労働省の専門医に関する会議の資料ですが、まずは内科という基本領域の専門研修を終える=内科専門医取得という考えのもと、制度変更となりました(内科が2段階制になった)。

 

3-2 旧制度での内科の専門医資格

新制度下での内科専門医試験は、まだ資格試験が始まっていないのでどの程度の難易度の試験になるかわかりませんが、旧制度での内科専門医資格にあたるものに総合内科専門医という資格があります。

認定医資格取得後、教育病院での4-5年間、内科医としてのトレーニングを積んだ後、受験資格が得られます。

あくまで個人的な意見ではありますが、かつて総合内科専門医はサブスペシャルティ領域の専門資格に比べて「専門医感」が低めな資格(循環器内科にいたら循環器専門医かどうかはなんとなく意識されるが総合内科専門医であるかを意識することはほぼない)でした。

「あの先生は資格取るのが好きなんだなぁ」程度の認識ですかね。

まぁ内科の部長職になるような先生は大抵取っているのでないとカッコ悪い(最近はホームページで資格取っていないことがバレてしまう)のと、内科系の教授選(教授は基本公募による立候補制で他科の教授の投票による選挙になります)の立候補資格に総合内科専門医資格があることも多いようで、そのために大ベテランの先生が受験した、という話もあります。

試験が内科全領域に及ぶため、なかなかの難試験で合格率が60−70%。嘘か誠か試験対策の情報サイトには「合格には最低200時間程度の勉強が必要」なんて書いてありました。

その上、5年ごとの資格更新のために必要なポイント(学会参加や講習の受講、学会発行の問題集の解答などでポイントがもらえます)が認定医の25点から総合内科専門医はさらに+50点(総合内科専門医は認定資格の更新の上に総合内科専門医資格の更新も必要)となるため、2の足を踏むわけです。

ところが制度が変更となり総合内科専門医試験も今年が最後、この資格は新制度の内科専門医に移行する(総合内科専門医資格をもっていれば新制度の内科専門医資格がもらえる)ことになりました。

新人教育のための教育施設として認められる指導医の条件として「総合内科専門医であることが望ましい(2027年以降は必須となる見込み)」とされているため、制度変更前に受験しておかないと、受験のための要件が緩和された2014年から受験者が急増しました。

内科医のできるまで(専門医編)

かくいう私も昨年この試験を受験。日常業務をこなしながら、帰宅後子供が寝静まるのを待ってから、好きなお酒もほどほどに机に向かいました。

サブスペシャルティ領域の勉強と絶対的に違うのは、専門外のほとんど詳細な勉強をする必要性のなかった話(分子標的薬や病気の原因遺伝子の名前など)を学ぶ必要があることです。

こういった幅広い領域の試験勉強をしたのは10年近く前に認定医の試験を受けて以来だったので医学の進歩に感心するとともに、かなりの苦労をしました。

その甲斐あってなんとか合格はできました。
内科の総合復習をするいい機会になったと思う反面、もう2度とあんな試験は受けたくないな、と思っています。

 

3-3. 新制度で下積みが長くなりキャリアの自由度は下がった

専門医を取得するのに指定の病院で3年間研修しなければいけないのはいままでと変わりません。

ただし、サブスペシャルティ資格まで最短で取得するためには6年目に2つの資格(内科専門医+サブスペシャルティ専門医)のレポート作成、試験勉強、受験をこなし、かつ内科専門医試験の合格が必須(でないとサブスペシャルティ専門医の受験ができない)ので最短での取得は少し大変になったと思います。

また、いままでは基幹病院だけの研修でもよかったのですが、新制度では

  • ・1カ所の病院だけではいけない
  • ・期間病院と連携病院の2つを経験しなければいけない

ことになりました。

ちなみに新制度で定める基幹病院と連携病院とは以下になります。

内科医のできるまで(専門医編)

イメージとしては、基幹病院は地域の中核病院、連携病院とは一般的な総合病院、といったところでしょうか。

いままでの制度では教育施設として認められた病院に在籍した期間で受験資格が得られましたが、新制度では病院ごとのプログラムに応募する、という研修医のマッチングと似たシステムのため、原則として内科専門研修中に病院を移動することは難しくなり、さらに決められた年数内に研修を終えなくてはならなくなりました。

結婚、出産、育児、子育て、介護、家族の転勤などのライフイベントに合わせた柔軟なキャリア形成が難しくなったわけです。

そのため特に女性医師で内科の選択に二の足を踏み、皮膚科、眼科、放射線科などマイペースにキャリア形成をしながら人生設計をしやすい科を選択するケースが増えているようです。

現役で医学部に合格したとして、医師になるのが24歳。研修医が終わるのが26歳、そこから3年の研修を経るため、最短でも内科医専門医が取れるのは29歳になります。

並行できるとはいえ事実上サブスペシャリティの専門医になれるのは30歳過ぎということになります。

ある統計によれば女性医師の結婚相手の7割は医師、ですので夫も同じように勤務先を転々としながら研修をしているとすれば、結婚した上で、出産、育児もし、キャリア形成をする、には他の業界以上に苦労があり、その中でも負担の大きい内科(外科も)の選択が躊躇されるのはうなずけます。

ただしこれは今に始まった話でもなく、

記憶が確かならばアメリカの医療ドラマ「チームER」では医師夫婦の妻が夫に対して「あなたより優秀な私がどうしてあなたのためにキャリアを犠牲にしなきゃならないのよ」と言っていましたし、

知人の医師夫婦はバリバリの外科医だった奥様が子育てとの両立を選び負担の少ない科に転科していました。

もちろん医師夫婦でもどちらも協力し合いながらともにキャリアを築いているご夫婦もたくさんいます。

専門医編は以上になります。
次回はサブスペシャリティ専門医取得後のキャリアについてお話ししていきたいと思います。

 

© 2020 Inui pediatrics and internal medicine clinic

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